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体力を作業能力ととらえる
日本で最初の系統だった体力測定・評価を行ったのは,12,800人の児童・中学校生徒を対象にした文部省の体育研究所であり,吉田章作が1932年に発表1),1938年に生徒・児童「体力標準表」を作成した.以来,1964年に児童・生徒に対して「体力・運動能力テスト」,1967年に「壮年体力テスト」を確立・実施するまで2),長い体力測定の歴史がありながら,「日本人の体力の平均値」の発表に止まり,目標値となる「日本人の体力の標準値」は未だに示されていない.様々な体力観があり,研究者により各体力要素の測定法も異なるからである.国際的には,日本の科学者の提案で国際体力標準化委員会が設けられ,6年間の歳月をかけて体力測定について検討し,その詳細が1972年に報告された3)が,体力の標準値を得るまでには至らなかった.
体力の定義にコンセンサスが得られない理由の1つは,“physical fitness”を「体力」と訳してしまったため,欧米的な“physical fitness”と日本的「体力」の間に考え方の大きな相違があり,混乱しているからである.欧米では国際保健機構(WHO)が定義した“Physical fitness is defined as the ability to perform muscular work satisfactorily under specified conditions”(1968)すなわち「physical fitness=“体力”とは特定の条件のもとに満足に筋作業を遂行しうる能力費という考え方に準じている.国際体力標準化委員会でも,身体活動を遂行する作業能力とそれを支える身体的能力を“physical fitness”=体力と位置づけ,その好ましい生理学的・医学的結果が個人の健康と厚生に強く結びつくとしている3).つまり,健康と結びついた体力の基礎は作業能力であり,それと結びつく種々の運動能であることを示唆した.
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