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リハビリテーション心理学に求められているのは心身相関問題への解答であろう.人は自分の異なったからだにどのように対処するかといった問題は未解決のままである.障害受容,コーピング,あるいは神経心理学の成果などはその解答の一部とみることができる.ここでは一つの試みとして「自己表現としての身体」といった見方からこの問題を考えることにしよう.ところが,自己にはやっかいな問題があるので,まずそれについて触れておこう.伝統的な考え方によれば,自己とは根本的に個人的な現実であって,最初から他者とは別個に存在し,後に類推によって始めて他者の自己を知ることができるとされる.これをsolipsismusと呼ぶことにし,あとで相互了解性と対比させたい.
自己は身体において3つのかたちであらわれる.すなわち,第1は機能としてのからだ,第2は「私の」からだ,そして第3は「私らしい」からだである.身体障害ではこれら3つのいずれかが障害されるが,脊髄損傷ではしばしば3つとも障害される.第1のからだの障害は能力低下のことである.第2のそれは「脱自己化」と呼ばれる症状である.麻痺部位が自分のものとは感じられなくなることである.たとえばある四肢麻痺の人が自分の腕に接触して「失礼」と言ったことなどがそれである.第3のそれには人間らしさの喪失が含まれる.直立二足歩行もその一例である.初期の頃には多くの人が車椅子に強い抵抗を示すが,その一方で歩行への訓練は熱心に取り組む.もう一例.かって自殺した四肢麻痺の女性の最後の言葉は「生きていることがすべて人間らしさに欠けている」であった.たしかに何年経っても「こんなからだでは」とこぼす人は少なくない.
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