巻頭言
コミュニケーション障害に対する新たなステップ
小林 範子
1
1北里大学医療衛生学部
pp.1325
発行日 1997年12月10日
Published Date 1997/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108540
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ST(スピーチセラピスト)とは,ことばによるコミュニケーションに障害を持つ人々に対して言語聴覚機能の発達と回復を援助するための専門家である.日本ではこれまでSTの国家資格が制定されておらず,その名称も,言語治療士,言語療法士,言語聴覚士,聴能言語士などと,職場や立場によってさまざまであった.専門職に資格制度がないための弊害は多いが,なかでもST数の不足は深刻な問題である.医療・福祉の現場で働くST数が約3,000人という現在,コミュニケーション障害があるにもかかわらずSTの適切なサービスを受けられない患者の数が決して少なくないのは,容易に想像できよう.
日本にSTという専門職が誕生したのは,1960年頃である.それからほぼ40年経っても国家資格ができなかった背景には,日本特有の社会文化的要素をはじめ,数種類の原因の存在が考えられる.職場や業務内容が微妙に異なる状況で働くSTの間に資格制度に関する意見の不統一があったことも大きな原因であった.その間に,援助体制の不備のために最も被害を受けたのは障害者である.この事実に対して,私をはじめST業務に就いている者たちは,自分達の努力不足を深く恥じてきた.
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