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はじめに
リハビリテーション医学の分野でよく話題になる「神経生理学的アプローチneurophysiological approaches」は,「神経生理学的な法則を利用した治療的手技」として知られている1,2).わが国では,「ファシリテーション・テクニックfacilitation techniques」や「神経筋再教育neuromuscular reeducation」という用語がほぼ同義語として用いられている.これらの用語は「促通による中枢性麻痺の回復」を強調する響きが強いが,実際の内容は促通に加えて,抑制や姿勢反射への影響をも含んでいる.また,中枢神経の異常のみでなく,末梢神経障害や廃用性筋萎縮などにも応用されている.
神経生理学的アプローチとして用いられている治療的手技は,そのすべてが神経生理学的に解明されているわけではない.また,各手技が説明されている機序に則っているかどうかも疑わしい.さらに,治療の適応となる疾患・病態や治療の目的に関しても理路整然とされているとは言い難い.神経生理学的アプローチは理論的背景が理解しにくいばかりでなく,その手技の修得が容易でないこと,講習会などが礼賛的であること,他の治療法を排他的に扱う傾向があること(流派の形成),治療効果が確実には示されていないことなどから,その遂行に関しては批判的な医療従事者が少なくない3).特に,1980年代から米国医療に経済効率の概念が導入され,リハビリテーション医療の内容が機能障害レベルにおける改善よりも,日常生活動作activities of daily living(ADL)をはじめとする能力障害レベルでの向上を目的としたアプローチに重点が置かれるようになったことも影響している.神経生理学的アプローチに固執することによって医療経済効率は確かに悪くなるが,中枢性麻痺の回復は絶対的に得られないと断言することには疑問が感じられる.
臨床的に経験されることであるが,共同運動レベルの脳血管障害患者に手関節背屈筋の反復的な叩打tappingを行うと,即時的に随意的な背屈が可能となる場合がある.効果の持続性は少ないが,特に難しい手技は必要とせず,誰にでも遂行可能である.また,症状固定と判断された脳血管障害患者において,上肢機能が1~2年の経過で徐々に改善する例に遭遇することがあり,このような例は上肢挙上の自己訓練を毎日欠かさずに遂行した場合である.すなわち,神経生理学的アプローチが全て無駄であるというわけではなく,将来的な医学の発展を考慮すると,その理論を追求することには何らかの意味があると考えられる.
本稿では,過去に報告された種々の神経生理学的アプローチについて,是非はともかくとして,その理論の一端をできる限りわかり易く概説したい.
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