Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
モームの生涯受容(第2報)―ロビン・モームの『モームとの対話』より
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.90
発行日 1997年1月10日
Published Date 1997/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108291
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前回(1996年11月号)の本欄では,モームが60歳と70歳の時に書いた『要約すると』と『作家の手帖』の記述をもとに,モームは自らの障害を受容してはいなかったものの,人生全体については受容していたのではないかという見解を示した.だが,その後91歳まで生きたモームの言動を見ていると,簡単にそう言い切ってしまっていいのか,若干の疑問を感じる部分がある.
というのは,モームの最晩年,彼の謦咳に接した甥のロビン・モームが,興味深いモームの姿を伝えているからである.例えば,ロビンは1978年に発表した『モームとの対話』(服部隆一訳,パシフィカ)の中で,彼が「いちばん楽しかった思い出はなんだったのですか」と質問した際に,91歳のモームが「そういうものは,い,一度もなかったね」と,どもりながら答えたという逸話を伝えている.また,モームは「私のは,し,仕損じの人生だった」と言い,甥から作家としての栄光を讃えられた時にも,「おかげでこの悲惨だよ.(……)私の人生は失敗作」と答えたというし,さらに別の機会には,「いま思うことといえば,私の犯した過ちのことだけだ.自分の愚かさしか頭に浮かんでこないよ,のべつ,過ちのし通しだった」とも語ったらしい.
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