Sweep Spot 文学に見るリハビリテーション
『人間の絆』のフィリップ―モームの障害受容(第1報)
高橋 正雄
1
1東京大学医学部精神衛生・看護学教室
pp.1015
発行日 1995年11月10日
Published Date 1995/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552107986
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モームの『人間の絆』(北川悌二訳,講談社)は,1915年,モームが41歳の時に発表した自伝的作品であるが,そこには,自らも吃音に悩まされたモームの障害受容的な考え方が示されている.すなわち,作者の分身的な主人公である医学生のフィリップは,いわゆる「えび足」だったため,長い間辛い人生を送っていたのだが,作品の末尾で,自らの人生や障害と和解できるようになっているのである.
晴れて開業医の免許を得たフィリップは,彼を「信頼し,親切にしてくれた」サリーと結婚し,貧しい漁村の医者になることを決意する.そして彼は,サリーが孕んでいるはずの自分の子供に思いを馳せるのだが,彼には「その子にたいする献身的な愛情がもうヒシヒシと感じられた」.そして彼は,子供の「完全な手足」をなでている自分の姿を思い浮かべ,「豊かで変化のある生活について自分がいだいていた夢すべてを,その子に託することにしよう」と思うのだった.
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