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はじめに
慢性関節リウマチ(以下,リウマチと略)患者は,持続する疼痛,進行する関節の破壊と変形,日常生活活動の制約の他に,身体障害に伴う収入の低下や失業の不安,家庭内役割の変化,対人交流の機会の減少など,慢性疾患の特徴とされる問題を複数抱えながら社会生活を送っている.このため1970年以降現在までに,アメリカを中心にリウマチとQOL(Quality of Life)の関係を扱った研究が多数報告されており,リウマチ医療におけるQOLの重要性が強調されている1-3).本邦でも,1990年より厚生省リウマチ調査研究事業が開始され,そのなかにQOL研究班が設けられるなど,関心は高まりつつある.
しかし,QOLの概念は膨大な範囲を包括する概念であるため,研究者間に未だ見解の一致が得られておらず,このためさまざまな目的で測定尺度が作成され用いられている.リウマチ医療の領域では,関節炎患者を対象に作成されたMeenanのAIMS(Arthritis Impact Measurement Scale4))が代表的で,近年,ver.25)も開発され,一定の評価を得ている6).本邦においても多数のQOL尺度が存在する7-9)が,治療計画の立案と評価を主目的に作成されているものや,疾患によって生じる身体的・心理的・社会的障害の程度に関する主観的評価をQOLの指標としているものが多く,患者の体験している個別的な世界,すなわち主観的な安寧や幸福感を直接知ろうとするものではない.
QOLの主観的側面には,特に,サクセスフル・エイジングを表すための指標として,老年学の分野を中心に「主観的幸福感」という概念が導入されている.主観的幸福感は,社会における個々人のQOLの心理学的総和として重要視されており,その測定尺度としてはLawtonの「改訂PGCモラール・スケール」10)が代表的である.これは,高齢者の内面的,主観的な幸福感を科学的に測定する試みとして開発された自己評価尺度で,心理学的尺度理論に基づいて比較的厳密に作成されており,幸福感を純粋に多面的に捉えることができると言われている11).さらに,尺度としての信頼性・妥当性および日本人への適用可能性について検討した先行研究がいくつかあり12,13),日本の老人の生きがい,あるいは主観的幸福感を測定するための尺度として有効であるとされている.
そこで,本研究では「改訂PGCモラール・スケール」をリウマチ患者に適用できるよう一部修正し,その信頼性・妥当性について検討する.さらに,リウマチ患者の主観的幸福感の特徴を明らかにし,その規定要因を探ることにより,今後の医療サービスのあり方について検討する.
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