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はじめに
高次脳機能とは一次運動野や一次知覚野などが行っている筋の運動や知覚など個々の要素的な機能を統合している脳の機能の総称で,その中心は連合野の機能である.つまり,われわれが多くのものを認知し,また多くの事象のなかにある関連性やその意味を考えたり,複雑な行為をする時に働いているのが高次脳機能であるが,そこで行われているであろう情報処理の複雑さを知る臨床家ほど,ヒトの高次脳機能の研究にサルやその他の実験動物の脳で得られた結果を持ち込むことに慎重になることは当然かも知れない.
しかし,近年の実験動物を用いた脳の情報処理の研究は,課題遂行中の神経細胞の電気活動を直接記録して課題遂行と関連するニューロン活動を検討する他,特殊な組織染色や電気活動の広がりを知る方法によって神経回路網や特定の情報処理過程を担当している細胞を同定している.これと同時にFMRI(Functional magnetic resonance imaging)や脳磁図,PET(Positron emission computed tomography)の発展はヒトの脳における解明を進めているが,それで得られた結果は実験動物で得られた知識が概ねヒトの脳にも当てはまることを示している.
したがって,飛躍的に発展するこの領域の知識を複雑に見えるヒトの高次脳機能障害の解明に用いて,障害の中核にあるメカニズムを明確にできれば,治療手段の発展につながると思われる.もちろん,これまでの神経心理学的な実験成績に基づいて構築された認知や行為に関する理論や階層的情報処理の考え方が無用の長物と化したわけではない.並列処理の一つの系における情報処理過程を理解し,一つの神経細胞の活動記録が情報処理過程のなかで持つ意味を考える時,神経心理学が構築した理論は大きな手がかりを与えており,今後の高次脳機能の解明にはこのいずれもが不可欠なものである.
ここでは,まず高次脳機能のなかでも解析が進んでいる視覚認知を中心に述べ,行為の障害にも簡単に触れたい.
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