Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
血友病は伴性劣性遺伝を呈し,男子人口1万人に1人の割合で見られる先天性出血性疾患であり1),わが国にはおよそ5,000人の血友病患者がいると推定できる.血友病Aでは第Ⅷ凝固因子活性が低下し,血友病Bでは第Ⅸ凝固因子活性が低下する.その他に類似した症状を呈する疾患に,常染色体優性遺伝でvon Willebrand因子の異常を示すvon Willebrand病がある.
しばしば足・膝・肘関節内に出血を生じ,血友病性関節症による疼痛や関節拘縮をきたす.関節の他に筋内などの深部出血,打撲による皮下出血,外傷後の止血困難,中枢神経の出血も生じる.血友病の治療の基本は止血治療であり,血液凝固因子濃縮製剤の輸注である.1983年に自己輸注が認可され,早期補充療法や予防投与,定期投与が容易に行えるようになり2),血友病患者も正常人とほぼ同様の生活や活動ができるようになった3).
血友病による主な機能障害は関節可動域の減少(足関節の背屈制限,膝関節の屈曲・伸展制限,肘関節の屈曲・伸展制限),疼痛,筋力低下であり4),主な能力障害は立ち上がり,しゃがみ込み,歩行,肘屈伸を要する動作の制限である.このため,血友病患者は日常生活動作ばかりではなく職務に関連する動作にも支障を生じ,これらの運動障害は就労阻害因子となる.また,健康人にとって出血は重篤で奇異な症状であり,職場で自己輸注をするのはためらいがあり,さらに遺伝性疾患であることの偏見が重なって就労阻害因子として働く.不幸なことには,1987年頃よりHIV感染が突如重大な社会問題として持ち上がり,HIV感染者が職場の同じ机に着くことに拒否的な立場の人が出てきて,血友病患者の就労は一層困難になってきたのも事実である.
血友病患者であるというだけで社会的に肩身の狭い思いをしたり,職場で敬遠されたり,就業が困難になることがあるのは大変残念である.医学の進歩により出血に対しては血液凝固製剤の輸注で対処でき,運動障害に対しては適切な訓練や職場環境の整備により対処することができるようになったので,仕事の面で健康人と大差のない実績を挙げることができると考える,身体的にも精神的にも自ら努力し,機会均等な社会参加と就労を求めて頑張っている血友病患者が多数いることを,われわれは謙虚に受けとめる必要がある.
Copyright © 1994, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.