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はじめに
個人が病気をどう解釈しどう意味づけるかは,時間とともに変化する。さまざまな出来事や出会いによって病気の意味は常に変容する可能性をもっている。過去の経験が新たな意味をもつものとして解釈されたり,逆に,重要な意味があると思っていた出来事がたいしたことではなくなったりする場合もある(野口,2001)。看護の分野においては,病気の意味が変化することを前提に,多くの健康行動理論が開発されてきた。健康行動の概念枠組みは,コンプライアンスや患者のモチベーションと密接に関連しており,患者の治療に適した行動を維持し,変化を促すためのツールとして役立つ(Syx,2008;Bastable,2011,p.210)。健康行動という名の通り,健康を志向するかたちで行動を変容することが医療者の間で志向されてきたと言える。それでは患者の側では,行動変容を伴う病気の意味の捉えなおしは,どのように経験されているのだろうか。
さまざまな捉えなおしを経験している患者の中でも,本研究では,薬害によってHIVに感染した血友病註1患者に着目した。小児慢性疾患では,患者は物心ついたころから,通院や治療が習慣としてすでにあるという経験をしている(鈴木,2005)。血友病もまた小児慢性疾患であり,幼少の頃からの日々のさまざまな出来事や,濃縮血液製剤の登場,薬害事件等の治療史上の出来事註2などが,患者にとって病いの意味を捉えなおす契機となり,時間的経過とともに意味が生成され続けている。このような経験をしている血友病患者の経験を記述するにあたっては,医療・社会情勢,時代背景から分離されないようにし,患者の意識や病気,障害だけを対象化しないという視点が求められる(杉本,2010,p.3;加賀野井,2009,pp.118-120)。また患者の置かれた医療環境についても,診療科や期間,病院等を既存の常識でもって分断しないように配慮することで,患者の経験を捉えやすくなると考えられる(メルロ=ポンティ,1945/竹内,木田,宮本訳,1964,p.3)。
よって本研究では,血友病患者の語りをもとに,患者が生きてきた人生史を辿り,さまざまな出来事を契機に,どのように自らの病いの経験を意味づけ,捉えなおしてきたのかを記述する。
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