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はじめに―本講座の目的と予定
最近,リハビリテーション医療の経営と経済に対する関心が急速に高まっている.個人的なことで恐縮だが,このテーマに関する私への講演・原稿依頼も1990年以降急増している.実は,私は,10数年前(1981年)に本誌に「リハビリテーションの経済学」という,この種のテーマではおそらくわが国初の概説論文を発表した1).しかし,この論文執筆時には大いに逡巡し,その冒頭で,「リハビリテーションの経済学という表現にはリハビリテーション関係者の多くが違和感を持つだろう.それがリハビリテーションの『理念』,ヒューマニズムと本質的に対立するという反発も予想される.」と「言い訳」をしなければならなかったほどだった.それだけに,最近の「時代の風」の変化に感概を覚えている.
このような変化の背景としては,1980年代以降わが国で実施されている「世界一」の医療費抑制政策の結果,リハビリテーション部門を含めて,多くの医療機関が経営困難に直面していることがあげられる2).それだけでなく,今後の経済の低成長と急速な高齢社会化という「与件」の下では,リハビリテーション医療においても,「稀少な資源の有効配分・有効利用」という意味での経済的視点が,不可欠になっている3).
しかし,一般医療に比べて,リハビリテーション医療に関しては経営と経済の情報が著しく不足している.実は,わが国にもそれに関する調査統計は数は少ないが存在するし,特に今回詳しく紹介する厚生省「社会医療診療行為別調査」は,世界に誇るべき官庁調査統計である4).また,欧米諸国では,1980年代以降,リハビリテーション医療の厳密な経済分析(費用効果分析など)が行われるようになっており,それらの中には,わが国のリハビリテーション医療の経済分析を行ううえで示唆に富むものが少なくない.しかし,一般の医学情報と異なり,これらの調査統計や海外文献はリハビリテーション関係者にはほとんど知られていないのが実状ではなかろうか.
そこで,この講座では,これらについて可能な限り具体的に紹介・分析を行いたいと考える.全体(全5回)の予定は以下の通りである.第1回:リハビリテーション医療のマクロ経済分析(「社会医療診療行為別調査」の紹介・分析),第2回:リハビリテーション部門の経営分析(原価計算調査と理学療法士等の給与分析),第3回:在宅ケア・地域リハビリテーションの経営・経済分析(費用分析,費用効果分析等),第4回:脳卒中リハビリテーション医療の経済分析,第5回:その他の疾患・障害のリハビリテーション医療の経済分析.
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