Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
「伊豆の踊子」について―精神療法的一言
高橋 正雄
1
1東京大学医学部精神衛生・看護学教室
pp.341
発行日 1993年4月10日
Published Date 1993/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552107345
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川端康成の『伊豆の踊子』(大正15年)は,主人公の「私」と踊子との淡い恋心を描いた青春小説として読まれることが多いようだが.精神医学的には,踊子との出会い,特に踊子の洩らした一言が「私」に精神療法的な作用を及ぼしている点で,興味深い作品のように思われる.
すなわち,高等学校の学生である20歳の「私」は,「自分の性質が孤児根性で歪んでいると厳しい反省を重ね,その息苦しい憂鬱に堪え切れないで伊豆の旅に出て来て」いた.彼はその旅先で,社会的な差別を受けている旅芸人一家と一緒になり,この「肉親らしい愛情で繋がり合っている」人々に親しみを感じはじめる.中でも彼が関心を引かれたのは,まだ年若い踊子で,彼はこの踊子と道中をともにするうちに,「朗らかな喜び」を感じたり,「頭が拭われたように澄んで来た」りするようになるのである.
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