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Ⅰ.聴覚障害者とは
社会的立場から見た揚合,聴覚障害者と同義語は“コミュニケーション障害者”,“情報障害者”となる.これは図1の通り逆ピラミッドで表わせる.つまり,聴覚障害という身体障害の上に躾や教育や環境が不適切であると,話せない,正しく読み書きができないというコミュニケーション障害が生じ,それがさらに情報の質的量的制約を招いて,知的能力が劣ったり,判断力の低下をもたらす.こういうことと共に,一般に聴覚障害者というと“ろうあ者”という1つの既成概念にあてはめてその行動特性を云々しがちであり,その既成概念はマイナスの評価から成り立っていることがほとんどである.
ひとくちに聴覚障害者といっても,読み書きが満足にできないために20年も勤続しながら一般の半分程度の低賃金と劣悪な労働条件に耐えているものから,同じ読み書きが不十分でも,人間的な包容力と技術の優秀さから職場の主任あるいは班長として健聴者を指導しているものもおり,さらに十分な読み書きの能力によって大学を出て弁護士や技師をしているものもいる.また,補聴器を装用してもまったく会話が不能なものから一般会話が十分に可能なもの,会話能力は劣るが子どもを全員大学に学ばせて幸せにしている先天ろうあ者など千差万別である.そして重要なことは読み書きがまったくできず,能力が低く,惨めで,貧しく,健聴者中心の世界でのミクロ的存在として,欲求不満の生活をしている聴覚障害者がそうでないものより決して多いということはないのである.しかし,世間一般の常識は,聴覚障害者→ろうあ者→文盲に等しい→憐憫の対象者という枠にとどまっている面が未だ強く,このことは読み書きができるといって驚き,大学に合格した,公務員になったといって新聞種扱いすることが物語っているのではないか.
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