Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
聴覚障害者は,聴感覚になんらかの障害があって,全く聞こえないか,聞こえにくい人々である.この聴覚障害者は,ほとんど聞こえず,相手とのコミュニケーションに手話など視覚的手段を用いる人をろう者,補聴器などを用いると相手と音声でコミュニケーションがはかれる人を難聴者と言う.ただし,聴覚は,人間の五感の中でも特に発達した感覚で学習や訓練の効果がたいへん高く,同じ聴力レベルでも個人によって聴覚を利用する度合は異なる.
聴覚障害者が直面する社会的・職業的困難さは,聴覚に障害を負った時期によっても,その内容が異なる.一般的には,言語概念を習得する以前の2~3歳までに重度の聴覚障害を負った人を言語概念習得前の聴覚障害者(prelingually deaf)と言う.この言語概念習得前の聴覚障害者の多くは,手話を用いてコミュニケーションを行い,独自の文化とコミュニティを形成する.また聴覚を通して音声言語を習得していないために,発声は不明瞭で,音声言語の習得も不十分な場合が多い.一方,言語概念を習得した後聴覚に障害を負った人は,言語概念習得後の聴覚障害者(postlingually deaf)と言う.この言語概念習得後の聴覚障害者は,聴覚を通して音声言語を習得した後聴覚に障害を負ったので比較的明瞭に発声ができ,音声言語の理解にもあまり問題がない.さらに職場生活を経験する以前に聴覚に障害を負い,職業訓練が必要な聴覚障害者を職業訓練前の聴覚障害者(prevocational deaf)と言う.
身体障害者福祉法では,①両耳の聴力レベルがそれぞれ70デシベル以上のもの,②一耳の聴力レベルが90デシベル以上,他耳の聴力レベルが50デシベル以上のもの,③両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のものを聴覚障害者としている.この定義に沿って昭和62年2月に実施された身体障害者実態調査によると,18歳以上の在宅の聴覚障害者は約31万9.000人と推定されている.この中で聴力レベルが100デシベル以上で両耳全ろうの人は35.3パーセントである.また聴覚障害発生時の年齢が0~3歳の言語概念習得前の聴覚障害者が18.6パーセント,言語概念習得後の聴覚障害者が66.7パーセント,不明が14.7パーセントである.さらに高齢化も進んでおり,65歳以上の聴覚障害者は57.7パーセントと半数以上である.
聴覚障害者は,聴覚に障害を負った時期や聴力レベルによって,社会や職場で直面する困難や課題は多少異なる.しかし聴覚に障害のある人は,対人的コミュニケーションに困難を伴い,聴覚障害は人と人の間に壁を作ると言われている.本稿では,このような聴覚障害者の社会的・職業的リハビリテーションの現状,課題などについて述べる.
Copyright © 1993, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.