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リハビリテーション科に従事して9年になった.この分野の仕事についてある程度理解ができてきたように思うが,いまだにリハビリテーション専門医としてのidentityに確信はない.
その理由を考えてみると,まずリハビリテーション医のやるべき仕事の範囲について,(リハビリテーション医不要論も含めて)医療職の間でも一般人の間でも明確なコンセンサスが確立されていないことが明らかである.実際,日常診療の中でそれぞれの患者さんや家族がリハビリテーションに期待すること,他科の医師や医療スタッフがリハビリテーション科に期待することは様々で,かつ曖昧なものであって,そのギャップを調整してゆく努力がリハビリテーション科診療上の主な仕事の一部であるといえなくもない.Impairmentが克服され得ないと決まった人々を診てゆくことにはある種の鬱陶しさが伴う.社会心理やQOLといった(文化的あるいは時に政治的な)価値観を伴う判断の問題は最近の医療全般に共通することではあるが,診療の出発点から患者と同じ地平に立ってこれに直面しなければならないとすれば,プロフェッションとしての判断も相対的なものでしかありえない.もう一つには(すでによく指摘されるように)「Physical Medicine」における科学の有効性に問題がある.冠動脈バイパス術や人工関節,臓器移植の例に示されるように,現代医学の最先端では医学・技術の進歩が新たなニーズを開発してゆくという傾向がみられた,内科や整形外科の医師が自分の仕事の専門性や技術を磨くことに戸惑う余地は普通はないだろう.これらは機械論的要素分析に基づく近代科学の手法が大きな成果を上げた領域であり,今後もその専門領域としての魅力は衰えそうにない.一方,リハビリテーションで扱うメインテーマの多くは(中枢神経障害や老化に対する治療的介入の効果や障害の評価だけでなく,筋力強化といった基礎的な課題に至るまで)確かに自然科学的に定義できる問題であっても,実際には要因が無数にあり,個々の要因同士の相互作用が無視できない(いわゆる非線型の系における)問題であるため,従来の科学的方法による実験的要素分析の研究が十分有効であるとは断言できない.もちろん,自然科学の方法論としてはこうした行き方以外めぼしいアプローチがあるとも思えず,科学的手法の有効なテーマから研究を進めてゆくしかないわけであるが,実践への応用の華々しさにおいてはいささか見劣りがするようである,新しく医学部を卒業された人や他の領域から参入してこられたリハビリテーション志望者が当初リハビリテーション医になることに戸惑いをもつことがあっても不思議はないという気がする.
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