- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
失語症患者の実生活でのコミュニケーション場面を考えたとき,従来の失語症検査では十分な情報とはなりえないと感じる人は少なくないと思われる.この問題を解決する目的で,著者たちは1976年アメリカのHolland教授の考案したCADL検査:Communicative Abilities in Daily Living―A test of functional communication for aphasic adultsを取り入れ,日本人失語症患者に適用できるようにした.1986年に標準化を完了し,その集大成がこのたび発刊となった実用コミュニケーション能力検査である.
この本の構成はⅠ~Ⅴ章に分かれている.Ⅰ章では,実用コミュニケーション能力検査の考え方とその背景,および従来の失語症検査との相違が述べられており,この本の主旨が良く理解できる.Ⅱ章では,検査の実際がきめ細かく書かれている.また,実生活の場面設定(病院,外出,電話,新聞,テレビなど)が次々とでてきて面白い.Ⅲ章では,CADL検査の本質とも思われる関連要因とストラテジーの話がでてくる.両者とも聞きなれない言葉である.課題遂行に際しては,言語の側面や認知・行為の側面の要因がいくつか複雑に関連している.この要因を関連要因と呼び,著者らは本検査に関連する要因を15個あげている.またストラテジーとは,患者自身がコミュニケーション上の困難さを補う工夫(例えば,聞き返し,ジェスチャーなど)を指している.この両者を整理し評価していくことが,実用コミュニケーション能力を高めるうえで大切なことであると述べている.この章では課題遂行の関連要因が5つ以上あるものもあり,問題を分析する力を養われるところが面白い.Ⅳ章では,検査結果の解釈と言語治療について書かれている.治療法の原則として,日常性,伝達性,ストラテジーの活用,交流重視の4原則をあげているのは興味深い.さらにコミュニケーションレベルごとに,患者周囲の者の対処の仕方が記載され,わかりやすく参考になる.Ⅴ章の資料では,失語症以外の患者にもこの検査法が使用できる利点を述べている.
Copyright © 1990, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.