書評
Linda Clare & Barbara A Wilson 著,綿森淑子 監訳―記憶障害のケア―患者さんと家族のためのガイド
大橋 正洋
1
1神奈川リハビリテーション病院
pp.1076
発行日 1999年11月10日
Published Date 1999/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109105
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いうまでもなく記憶は,人間にとって重要な精神活動である.どれだけ重要であるかは,リハビリテーションの現場に訪れてくる記憶障害者の当惑ぶりを見るとわかる.しかし,記憶障害が脳損傷の後遺症である場合,これを医学的に治療する手段はない.身体障害がなく,記憶障害だけが問題となった場合,利用できる福祉や労働分野のサービスは少ない.
本書の著者は,記憶障害患者へどのように対応すべきかを研究してきた第一人者である.関連の著書もいくつか邦訳されている.本書は特に,「患者さんと家族のためのガイド」と副題がついている.そのため活字の大きさや字体,イラストなどが工夫されていて,医学や心理学をまったく知らない人でも読み通すことができる.さらに患者が,CT検査や神経心理学的検査などを受けることを想定して,それらの検査を受けることへの不安を解消する文章もある.本書のメッセージは,「記憶障害が治らないとしても,対応する手段はある」という前向きのものである.こういった著者の意図は,邦訳となっても見事に活かされており,読みやすい文章となっている.
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