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はじめに
病気は生物学的現象であると同時に人間学的出来事であり,医学・医療が人間を対象とする学問・技術である限りにおいて,後者の問題を避けては通れない.
今,医療におけるエシックスがクローズアップされている.医学・医療が生物学-科学技術を優先させた結果であると言われている.しかし,人間が生まれ,生き,死にゆく過程において,エシックスの論議は生死の両極にのみ視点が向けられているきらいがある.“どう生きるか”,“何が望ましい人間の生であるか”ということも非常に大事であり,リハビリテーション医療の中心課題であろうと考える.癌の告知は生命の不安・恐怖への対応が課題であるのに対し,障害の告知は生活の不安・恐怖が大きなウェートを占めている、しかし,いずれも残された生をどう生きるかという点では共通であると言っても過言ではないであろう.
1940年代,医療技術の目的志向性と専門分化の過程で,リハビリテーション医学は「障害を有する者に対し,可能な限り,身体的,精神的,社会的,職業的および経済的な有用性を回復させる」という理念の下,全人的復権を目指し,一般治療医学から“第3の医学”として分離独立した2).
しかし,疾病構造の変遷,疾病・障害の重度化が余儀なくされる中で,“有用性の回復”を目標とした専門技術優先が,障害者の選別という新たな轍を踏むこととなり,トータルリハビリテーションが叫ばれ,屋上屋を重ねる結果となった.また,一方,目標決定における専門家優先に対し,自立生活(IL)の実践が芽生えた2).
国際障害者年の1981年,障害者インターナショナルのリハビリテーションの定義には,職業的,経済的という語句はなく,“各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していくことを目指し”とあり,“どう生きるか”の自己決定の主体はあくまで当事者自身にあることを明らかにしている3).
リハビリテーション医療における医師・患者関係も広く対人関係における相互作用過程である.この対人関係の相互作用を理解する上で役割の理論が有用である.まず疾病に対しては病者の役割と医師の役割との関わりについて述べ,次に障害者の役割に対して医師はどのように関わるかを考察し,症例を通じて具体的に述べる.最後にリハビリテーション医療におけるインフォームド・コンセント(知らされた上での同意,説明と同意)について考察する.
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