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はじめに
歩行の評価の歴史は古く17世紀にまで遡ることができる.その目的は,歩行の科学的分析を試みたもので,方法論的には形態学的手法,力学的手法,さらに前二者とも関係するが,時系列的な手法が挙げられる.形態学的には体の関節部位に反射性のテープを張りつけ,断続的なストロボ撮影を行ったり,映画やTVカメラでいろいろな面での歩行を撮影するものがそれである.力学的な手法では床反力計が最もよく知られており,筋電の積分値をパラメーターとしたものも同じ部類と考えられる.それらはいずれも時間軸を持ったものだから時系列信号だが,足底にスイッチをつけて歩行の各期とその時間を見るのはかなり純粋なそれと考えられる.
ここ15年ほどの間に,歩行に興味を持つ研究者や研究所が,エンジニヤの助けを借りてこれらを組み合わせ,コンピューターを用いて分析した発表が次々となされている.いろいろな研究が進められていることは大変喜ばしいが,データやその分析結果がかなり難解になってきており,一度聞いただけでは何のことかサッパリわからないことの方が多くなってきた.また,大がかりになってきたため,患者を相手とする臨床家には余り役に立っていないのも実情であろう.また,いろいろな歩行分析のための機器が整ったところで,それらを使いこなせず四苦八苦している貧乏な私たちにはうらやましい人たちも見かける.
これらの機器を用いた研究のもう一つの特徴は,対象が正常か,ほぼ正常に近い,言うなれば歩行障害の非常に軽度のものが多く,リハビリテーション医学で特に重要な歩行不能の対象を歩行可能にする段階では,余り役に立たないことであろう.
この小論では,これらの高価な機器類については触れずに,臨床的な諸点を強調していきたい.
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