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はじめに
一昨年5月に,私ども義肢装具の製作,適合にかかわる者が,その実現を多年の悲願としてきた義肢装具士法が成立し,昨年10月に第1回国家試験が実施され,日本全国で735名の義肢装具士が誕生した.障害者のリハビリテーションにおいて義肢装具の果たすべき役割が極めて大きいことは論をまたないところであるが,今回の義肢装具士の法制化の過程において,同時にとりあげられながら成立に至らなかった他の医療関連職種,例えば言語聴能士や医療ソーシャルワーカーに比して,極めてマイナーな職種に属する義肢装具士の資格制度が,一足先に実現したことに対し奇異の観をもたれた方も多いはずである.その秘密は,医師,行政官,研究者,教官,技術者,業者という職種や立場の相違を超えて,義肢装具士法の成立を目指し,20年近くにわたって執念を燃やし続けた一つのグループの存在にあったと言っても過言であるまい.このグループが厚生大臣あてに提出した資格制度の要望書によれば,「義肢装具は,これを必要とする障害者にとって単に身体上の構造・機能を補うことのみならず,障害者の自立生活の質をも左右するほどの影響を与えるものである.したがって,義肢装具は,材質の良否のみならず,適合装着といった技術が重視されるものであり,障害者の生活の質を高めるために義肢装具技術者の果たす役割は極めて大きなものがある.近年,障害者のニーズの多様化,医療技術の高度化,機器材料の質的向上,リハ医学における専門分化,障害者の高齢化や重度化の傾向により,義肢装具技術者は他のリハ医療スタッフとチームを組むに足る資質が求められることから,社会的に信頼を得るためにも一定の資格認定が必要である.」という.
さて,このような背景のもとに誕生した義肢装具士が,新しい医療職の一つとして広く世間で認知されるに至るまでにはいくつかのハードルを越える必要があるものと思われる.まず義肢装具士制度に,医療関係職種のうちで初めてチーム医療という考え方が導入された.この連携の場としての,例えばある障害者の社会復帰プログラムを決定するためのカンファレンス等において,義肢装具士は少なくとも義肢装具に関しては他の職種の人達と同等以上の発言を期待され,それに応える必要があろう.それでなければ,同レベルの国家資格とはみなされないのは当然である.同時に有資格の義肢装具士がその製作適合等に係わった義肢装具が,無資格者のものよりは,はるかに高品質のものとして,障害者の信頼を得て受け入れられるものでなければならない.新しく義肢装具士になった人達と,これから義肢装具士を目指す人達とが,常にこの2つのハードルを強く意識して,自らその社会的地位の向上に努力することこそ,多年にわたり義肢装具士法成立にご助力を賜わった関係者各位に対する最高の返礼であろう.
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