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はじめに
脳卒中患者では,発症直後に意識障害や嚥下障害があるため,経口摂取不能となる例が少なくない.従来から,意識障害を伴う患者に対しては,第3~4病日という早期から経管栄養を開始することが勧められ,習慣的に広く行われている.
しかし経管栄養による弊害・合併症はしばしば経験され,意識レベルの回復してきた患者の自己抜去例に象徴される患者の苦痛も無視しえない.例えばSailerは,経管栄養法による合併症を胃管留置に起因する機械的なもの,消化器症状,および栄養学的合併症の3つに分類し,その頻度は下痢・腹痛に限っても10-20%におよぶほど高いと報告している5).
さらに意識障害のうち,従来経管栄養法の適応とされてきた3・3・9度法で2・3桁のレベルの症例はそれほど多いものではない.亀山6)によればそのような例は,死亡例を含む脳卒中患者でも,脳出血で43%,脳梗塞では15%である.また死亡例を除けば当院の早期脳卒中患者7)の入院時で27.2%であり,しかも多くは一過性で一カ月以上遷延する例は6.0%に過ぎない.
このように,一過性の嚥下不能例が大半を占める早期脳卒中患者に対しては,トラブルが起き易い経管栄養法の適応例は現状より限定されるべきであり,これに代わる方法の検討が必要である.
一方,リハビリテーション医学の立場からは,脳卒中患者の嚥下障害の診断・評価法に関する報告8~12)が増えつつある.そのなかでも嚥下障害の客観的評価法として,造影剤を嚥下する経過を透視下に観察しビデオに記録するビデオフルオログラフィー8,9)(以下VFと略す)が注目されている.しかし筆者は,VFを追試した経験から,以下の理由で発症直後の脳卒中患者全例にVFを行うことは実際的ではないと考えている.第一に,移動動作の自立していない患者においてVFを施行し,食形態(固形・半固形・液体など)・姿勢などについて評価するには一時間近い時間と複数の介護者が必要であった.第二に,窪田ら10)が水のみテストの経験から指摘するように,食事中にはむせながらも検査時の数回の嚥下においてはむせも異常所見もみられない症例が,VFにおいても認められた.これら実施の困難性と再現性への疑問から,VFは比較的重度の嚥下障害を示す限られた症例に適した評価法と思われる.
このように,脳卒中早期でも実用的な嚥下障害の評価法がなく,従来の研究が慢性期患者群を対象とした研究8~10)であるために,急性期脳卒中患者の嚥下障害の頻度を明らかにする報告が極めて少ないと思われる.
また,経口摂取不能患者に対する治療的アプローチの方法12,13)の報告はあるが,比較的少数の症例の経験にもとづくものが主であり,基準化されているとは言いがたい.
代々木病院リハビリテーション病棟では,早期脳卒中患者に対しての経管栄養法に起因するトラブルの経験から経管栄養法を最小限に抑えるべく,医師と看護婦とが協力して,数年前から評価と訓練を兼ねた段階的嚥下訓練法の基準化に取り組んできた.そしてこの訓練法を用いると,9割の患者では経管栄養を用いることなく比較的短期間に経口摂取が可能となることが判明した.また最終的な経口摂取の予後は,2週時の意識レベルでほぼ予測可能である.さらに今回,嚥下訓練開始基準について検討した結果,嚥下訓練開始は,発熱で阻害されず,坐位耐性訓練に先行してよいことが明らかとなった.この小論では,以上に加え早期脳卒中における嚥下障害の頻度,経口摂取の阻害因子についても述べる.
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