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はじめに
本稿は,表題における副題に中心をおいて論を進めていくことにする.
国立職業リハビリテーションセンターをはじめ各種職業訓練校・聾学校職業科において聴覚障害者のための職業能力の評価,作業評価・適応評価や職業訓練(教育)が行われている.これらの機関がそれぞれ果たしてきた役割は多大なものがあると評価されてはいるが,一方では,職業リハビリテーションにかかわるそれぞれの機関がその役割を十分に果たしているとはいい難いともされている.特に,聾学校職業教育には多くの課題が山積しているとの指摘がある.
聴覚障害者の職場適応に関する実態調査報告は世に数多く出されている.研究室・学校現場・企業サイド等で行われてきたが,その中で企業サイドで問題として取り上げる聴覚障害者の職場不適応原因の最大のものは,“ことば”すなわち,コミュニケーションの困難性から生じる種々のトラブルがそれであるとの指摘が圧倒的のようである.
健常者特有の適職がある筈がないと同様に,聴覚障害者に特有の適職も存在しない.このことから,聴覚障害者のための職業リハビリテーションを考える時,むしろ,それ以前の段階における聴覚障害に起因することで生じるであろうコミュニケーションハンディキャップをはじめとする二次的障害の防止と除去を優先しなければならない.聴覚に障害があることが判明したその時から,医学・教育・心理・工学等全ての科学を動員しての補償活動の展開が必須の条件となろう.以後,学校教育をはじめ職業訓練の場・企業内・社会生活における全ての場面において聴覚障害で生じたハンディキャップの軽減のための活動が行われなければならない.聴覚障害者の全人的発達は関係する人々の深い知恵と貢献の度合によって左右されるのである.さらに加えれば,聴覚障害者は,自らの障害を正しく理解することは当然であるし,常に能動的態度で活動し続けることが肝要となろう.要約すれば,聴覚障害者を受け入れる社会の理解ある姿勢と聴覚障害者自身が同等の人格のもとに相互に生涯的役割を果たし合ってこそ活力ある生活が期待されよう.
1985年にスタートした国際障害者年は,“完全なる社会参加”をスローガンに障害者の自立をうたっている.聴覚障害教育に携わる者の一人として,この人達が生涯生きがいのある生活をしつづけられるような社会が実現する日が来ることのために全力であたりたいと常々思っている.
以下,聾学校を中心にして,その現状と聴覚障害者の職業に関連する事柄にふれ本稿の責を果たすことにする.
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