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はじめに
高齢化社会の到来とさけばれるようになって老年者への関心がとみに高まってきた.なかでも「寝たきり老人」,「ぼけ老人」という言葉はすっかり日常的になっている.わが国における人口高齢化速度は,昭和75年までに14~15%の水準に達するとされている.西欧ではこの数値に達するのに100年を要しているが,わが国ではわずか45年間でこの人口に至るのである.このことは,高齢者につきまとう疾病の多様さと慢性化傾向を有するという医療上の点のみならず,高齢者をとりまく家族,住宅などの社会問題に早急の対応を迫られていることを意味しているが,各問題に含まれる意味の検討が十分に行われない限り,問題相互のシステム的な解決は容易なことではない.
老年期痴呆は,老年期における特徴的な疾患として取り上げられる.この疾病は今後も増大することが予想され,複雑な問題を提供してくる.たとえばささいな原因でも臥床が続くと寝たきり状態になり易いこと,そのためリハビリテーションプログラムにのりにくいことがあげられる.したがって,その予防と対策を進めることが切に望まれている.
一方,大腿骨頸部骨折は同じように高齢者に多く,確実に歩行不能におちいり,早急に積極的整形外科的治療を行いリハビリテーションのルートに乗せないと「寝たきり」にしてしまう.大腿骨頸部骨折と老年期痴呆との合併は,航海中の船体(身体)と船長(精神)との関係にたとえることができるであろう.いずれにも障害を認める際に,一方の障害のみに治療介入しただけでは治療プログラムが円滑に進まないことは当然のことであろう.海に漂う破損船の中で船長の治療を行い,また一方で船長の十分な指令が得られない破損船の修復を自ら行うのである.ここにいたって人間全体へのケアが問われてくるのであって,われわれの眼前に存在するこの老年者は,現実に毎日数多くみられる.この中にわれわれが関わらねばならぬ「何か」がある.テーマである大腿骨頸部骨折と老年期痴呆との関りは,患者の「寝たきり」防止にあるといってよい.だが現実にはそれが困難なことが多く,リハビリテーション医学の可能性にチャレンジしている課題の一つでもあろう.
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