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はじめに
脳損傷者の「非言語能力」を問題にする場合,一般的にこの用語は,明らかな失認・失行の概念では分類しがたい,より総合的ないわば非言語的知能を指していると考えられ,本稿でもその意味で使用していく.
非言語能力の評価に用いられる最もよく知られている検査法はWAISの動作性検査であるが,この検査の5種の下位検査の中には,記号を書いたり積木を操作するなど,ある程度の手の動作の巧緻性が要求される課題が含まれているために,片麻痺患者にとっては不利な面がある.このような問題がなく,非言語能力の研究史上しばしば使用されるのがRavenのStandard Progressive Matrices(RPM,図1)とColoured Progressive Matrices(RCPM)である.後者は年少者を対象とした色つきの図版で,そのほとんどの課題が成人用のRPMのやさしい課題によって構成されており,両者に本質的な差はなく,ともに脳損傷者にしばしば利用されている.
Raven1)は自身のテストについて視知覚の能力と空間的な論理的思考を要求する非言語的な知能テストであると述べている.このテスト課題は図1の例にみられるように,刺激図版の欠如部分にはめ込むべき模様を下方の選択肢から選ぶものであるが,刺激図版の各模様のおのおのを関係づけて把握し,全体的な図版構成に用いられている基準を推理判断しなければ正しい選択が出来ないようになっている.実施に当っては,ことばによる教示を理解出来なくとも検者が示すデモンストレーションから類推して検査が可能であり,また反応は図版の指さしのみであるため,失語,麻痺,失行などを合併する患者にもっとも使いやすいテキストとなっている.
本稿では片麻痺患者の非言語能力を,このRavenテスト(以下,RPMやRCPMについて,適宜このように表現する)の成績を中心に検討していくことにしたい.ただし,Ravenテストによる脳損傷者の非言語能力に関する研究史の検討はわれわれが既に行っているので2,3),ここではそれらをまとめて概観すると同時に,それ以後の研究について調べ,さらにわれわれ自身のデータも加えて片麻痺患者の非言語能力を検討していく.
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