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はじめに
クオリティ・オブ・ライフ(quality of life,QOL)はふつうに「生活の質」と訳されていることが多いが,その他に「生命の質」,「人生の質」などの訳も使われている.後に述べるように,これは「ライフ」をどうとらえるかということに関係しており,単に言葉の問題ではなく,論じている対象の違いを反映していることも多いし,少し大げさに云えば,その人がQOLという概念にどのような内容を想定しているかという思想的立場の違いを示すとさえ考えられるのである.
quality of lifeという英語自体はごく普通の単語の組合せであり,それ自身としては特別の専門用語らしい響きをもっているわけではない.したがってこの語が使われたことは以前にもあったであろうと思われる.しかし,専門用語あるいは半専門用語としてこれが使われるようになったのはそう古いことではなく,1960年代の末から1970年代の初めごろからであり,経済学,社会学,社会福祉学などの分野で使いはじめられ,次第に一般用語化してきたものである.ことにわが国では,高度経済成長の時代が終る頃から,「生活の量的向上が一段落したのだから,今後は質的向上をめざすべきだ」というような問題意識とともにこの語が使われはじめたといってよいようである1).
リハビリテーションや障害者運動の分野でも,ほぼ同じ頃から障害者の「ライフ」(生命,生活,人生)の質の向上と充実の重要性を強調するためにこの語が使われるようになった.1980年の第14回リハビリテーション・インターナショナル(RI)世界大会(カナダ・ウイニペッグ)ではこれがメイン・テーマの一つにとりあげられている2).リハビリテーション医学の分野でもこれは1979年の第56回アメリカ・リハビリテーション医学会(ACRM,ハワイ)のメイン・テーマとしてとりあげられ,さらに1982年の第4回国際リハビリテーション医学会(IRMA Ⅳ,プエルトリコ・サンフアン)でもかなり大きくとりあげられている.
筆者は先に「やや先走っていえば,今やリハビリテーションの目標は従来の日常生活動作(ADL)からQOLへとドラスチックに変換されなければならない時代を迎えたといってもよい」3)と書いたことがあるが,社会的リハビリテーションや障害者運動の立場では,これはすでに常識といってもよいものになりつつある.特に近年の障害者の「自立生活」(independent living,IL)の思想と運動は旧来の姿勢に安住していた「リハビリテーション」の理念に対しての根源的な批判であったが,それとの真剣な「対決」の中から,リハビリテーションの理念の再検討と再確立がおこなわれた.砂原の言葉をもってすれば「IL運動によってリハビリテーションが正しい軌道に復帰した」4)のである.そしてこの「正しい軌道」の一面を強調するものとして「ADLからQOLへ」のリハビリテーションの目標の転換があったと云ってよいのである.ただ本誌の読者の多数を占める医学的リハビリテーションの分野の人々には,このような転換が必しもまだ十分に納得できるものとはなっていないと思われるので,本論ではリハビリテーション医学(医療)の目標としてのQOLの概念と意義を中心にできる限り議論を深めることにしたい.
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