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わが国の人口構成は次第に高齢化し,65歳以上の人口は1983年には9.8%であるが,2000年には16.3%に達すると予想されている.このように高齢者が多くなるに従い,寝たきり老人などの心身障害者の比率が高くなってきた.これに伴って老人に対する医療費が漸次膨張し,政府ほ医療と財政面からこの老人間題を放置出来なくなり,本年2月老人保健法を施行した.この法律に対してわれわれ医師は大きな関心を寄せざるを得ない.
老人保健法の目的は「国民の老後における健康の保持と適切な医療の確保を図るため,疾病の予防,治療,機能訓練等の保健事業を総合的に実施し,もって国民健保の向上および老人福祉を図る」ことにあるという.そもそも人の生理的年齢と暦年齢との差は高年齢程個人差が大きいので,医学的に老人の定義を決めることは容易でないが,この法律は70歳以上の老人に適用している.このような年齢の決め方を行政的な社会通念と解釈しても,何故70歳以上の老人を医療面で特別扱いしなければならないのだろうか.この法の制定の動機が老人医療費のl蝿抑制と健保財政の健全化にあったとしても医療行為を医療費の面から規制するのは元来医療の本質から考えると納得しかねる.例えば許可病床数のなかで70歳以上の患者の病床数の割合が60%以上である場合,老人保健法の上では特別許可外老人病院として差別して取り扱ったり,長期入院患者については期間を6区分にわけて入院料が漸減したりするのは老人の慢性疾患患者を収容する病院にとっては大きな問題となる.別に故意でなくても退院後の受け入れ態勢の不備などで止むを得ず入院期間が延長されたりするのはわれわれの病院ではしばしば遭遇する出来事である.
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