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まえがき
脳卒中では,脳病変の局在と拡がりによって,身体機能,精神機能,感覚器などの障害が認められる.
ここでいう精神機能障害には,精神障害(知能低下,情緒障害など),高次脳機能障害,心理的障害なども含めている.その方が臨床上では実際的で便利であると思っている.
それは,これらの障害が相互に密接な関連をもっているというだけでなく,そのすべてが行為・行動・動作の異常をもたらすものだからである.たとえば,私達1)は,老人性痴呆が健忘を基盤としているのに対して,脳卒中後痴呆には,高次脳機能障害(象徴機能障害)が深く関与している点に特色があると考えている.また,失語,失行,失認という高次脳機能障害と心理的障害との関連について,佐藤2)は,運動性失語症患者は破局反応に陥り易く,感覚性失語症では不安~抑うつ状態を示す傾向があり,視空間失認があると現実的自己評価能力に劣り,不安感をもち続けるものが多い,などと述べている.
脳卒中のリハビリテーションを阻害するものとして,精神機能障害は運動麻痺を主徴とする身体機能障害よりも大きな影響を及ぼしているといえよう.とくに,優位半球の障害にみられる,失語症を伴った観念失行,観念運動失行,また,劣位半球の障害による半側空間失認や構成失行などの高次脳機能障害は重要である.
これらの高次脳機能障害に関連して,左右両大脳半球にそれぞれの機能中枢が局在し,両半球が異なった機能をもち,かつ,半球内と半球間の交通線維によって相補的役割があるということが次第に解明されようとしている.しかし,臨床の場では,なお,多くの失行と失認を区分することがきわめて困難である場合が少なくないのである.
Kleist3),Strauss4)によって提唱された構成失行については,はじめは,優位半球頭頂葉症状と考えられていたが,劣位半球の頭頂後頭葉背側部に病変のある場合にも視空間失認などと共に認められたことから,構成失行は,認知と行為の双方にまたがる症状として理解する必要があると指摘されるようになった.これまでの歴史的な論争からみても,構成失行のメカニズムはまだ仮説の域を脱してはいないが,本稿では,リハビリテーション医療という立場から,臨床症状,検査方法,脳病巣との関連,症例と治療について述べてみたいと考えている.
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