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はじめに
高次脳機能障害といえばもっぱら失語・失行・失認のみを意味していた初期の時代から,次第に対象範囲を拡大して,記憶・注意・意欲の障害,動作の持続の障害(motor impersistenceなど)にもひろがり,更に現在では以上のような高次脳機能の部分的・要素的障害にとどまらず,痴呆,意識障害などの脳機能の全般的な障害をも含めて考えるようになってきている.今回の特集もそのような見地から,依頼原稿も,また募集による症例報告も広い範囲にわたるものをとりあげている.ただ失語,発語失行,聴覚的語音失認などの言語機能の障害については,それだけで十分特集となりうるものなので,他日を期して,今回は失読・失書以外は割愛した.
高次脳機能障害がそれをもつ患者のリハビリテーション(全人間的復権)の上で重大な問題であり,しばしば大きな社会的不利(ハンディキャップ)の原因となっていることはあらためていうまでもない.それだけにリハビリテーション医学の立場からこの問題の研究と,それにもとづくリハビリテーションの診断学およびリハビリテーション・プログラムの確立が一日も早く望まれるわけであるが,現実にはこの分野の研究が,長いあいだ神経内科学や精神医学のアカデミックな立場からなされてきたという事情に大きな影響を受けて,障害の治療と患者のリハビリテーション(この2つは同一ではなく,後者は前者を含むより広いものである1))をめざす実践的な立場に立った研究というより,リハビリテーション医学独自の立場を確立することはまだ極めて不十分であるといわねばならない.
この小論文では特集への序論として,リハビリテーション医学の立場に立った高次脳機能障害の研究の方向について,2,3の所感を述べてみることにしたい.これは強い主張というよりは,むしろリハビリテーション医学の立場に常に立ちつづけることがいかに難しいかについての反省ともいうべきものである.
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