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はじめに
正常の膀胱には,蓄尿機能と排尿機能という相反する機能がある.
蓄尿機能:膀胱に尿が留る過程では,ある一定量まで尿意はなく,膀胱内圧も上昇しない.一定量(150ml~200ml)に達すると,はじめて尿意(最小尿意)を催すが,大脳皮質からの抑制が働き膀胱利尿筋の緊張は低下し,膀胱頸部・後部尿道の緊張が増し,外尿道括約筋を意識的に収縮させることにより尿を失禁することはない.さらに膀胱内に尿が貯留して,容量が350ml~450ml以上になると膀胱内圧も上昇して,強い尿意を感じ排尿しようとする意識が働く.しかし正常の状態であれば,排尿の環境が整うまでは排尿を充分に我慢できる.
排尿機能:排尿の環境が整い,一旦排尿を決意すると上記の大脳皮質からの抑制は解除され,膀胱利尿筋は強く収縮し,膀胱内圧が充分に上昇する.同時に尿道括約筋は完全に弛緩し,排尿が始まる.一旦排尿が始まると,膀胱内の尿を完全に排出するまで,膀胱利尿筋の収縮は続き膀胱内圧は維持され,一方尿道括約筋の弛緩も持続する.この膀胱内圧を一定に維持するために,腹壁や横隔膜の緊張による腹圧も関与している.
これらの機能は,交感神経(下腹神経),副交感神経(骨盤神経),体性神経(陰部神経)による微妙な神経反射によってコントロールされている.そしてこれらの神経反射の中枢としては,脊髄(仙髄)にある中枢,脳幹部にある自律排尿中枢があり,もちろんその最高中枢は大脳皮質にある.この一連の神経系や膀胱,尿道など下部尿路のどの部分がうまく働かない場合にでも,臨床上いろいろな問題が生じてくる,つまり膀胱機能障害(排尿障害)というわけである.この膀胱機能障害は,前立腺肥大症や尿道狭窄などに代表される器質的膀胱機能障害と,脊髄損傷や種々の脳疾患にみられる機能的膀胱機能障害(神経因性膀胱)に分けて考えることができる.もちろん,両者の合併していることも稀でなく,その診断,治療にあたっては細心の注意が必要である.また膀胱機能障害がある場合には,排尿困難と尿失禁という相反する症状が混在していることがあり,実際の臨床上では完全な排尿困難(尿閉)や完全尿失禁から不完全尿失禁まで,その程度もさまざまである.
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