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編集後記
大井 淑雄
pp.959
発行日 1982年10月10日
Published Date 1982/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552104842
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本邦が欧米のいわゆる先進国と寿命,衛生面で匹敵するようになったのはついこの間のように思われる.しかも現在ではさらに抜きん出るくらいにまで進歩した.近世から現代にかけての老人人口の増加は欧米においてはゆっくりとしたペースで行われ,社会福祉やリハビリテーションもそれに対応して着実にその成果を挙げて来た.ところが我が国では急激な変化があまりにも短期間におこったために,医療の側も,行政の側も,あるいは社会一般の通念からもその対応が十分きめ細かく行われる時間が不足していたかのごとく見える.老人問題,加齢現象は臨床医学に限ってみてもほとんどの領域において今や主題となっている.
本誌でも今月号に東大老人科の江藤文夫氏をguest editorにお招きしてこの問題をとり上げた.山田正篤氏は老化の機構を細胞生物学的レベルでわかりやすく解説され,篠原恒樹氏は老人の多くみられる疾患と栄養の諸問題を,また宮下充正氏は体力という概念から老人への運動処方の要領について述べられた.老人においてもトレーニングの効果は十分見られ主観的にも客観的にも満足すべきものであったとしている.特集をまとめるのに大変御尽力をいただいた江藤文夫氏は老年の障害の大きな要素となっている精神的問題について触れ,精神老年医学psychogeriatricsが地域ケアの重要性を認識させるために必須であるとして強調された.斎藤武氏はいわゆる末期患者の看護と治療についての現実を直視し宗教,哲学的教訓をも含めて厳しい問題提起をされた.
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