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はじめに
外傷性頸髄損傷で四肢麻痺の患者が,完全麻痺なのか不全麻痺なのか,不全麻痺ならばいつ頃まで麻痺の回復が期待できるのか,また歩行できるようになるのか否かは,患者のみならず頸髄損傷の治療にたずさわる者にとり極めて重要な問題である.
頸髄完全損傷患者の麻痺高位に対応した能力的予後を報告した論文は,古典的にはLongら12)のものが有名であり,その他Symingtonら22)や Garrett6)などのものがあり,最近ではRogersら18)が追跡調査の結果を機能再建術や装具使用との関係を検討し,報告している.また本邦では安藤ら1)の報告がある.
これに対し頸髄不全損傷患者の受傷後の機能的,能力的予後を論じた報告は比較的少なく5,11,15,21),訓練の継続的な経過の中で,その変化を詳細に観察し検討した報告は皆無といってよい.そのため頸髄不全損傷のリハビリテーションは,その目標を設定するにあたって基本となるべき資料も乏しいままに,治療者個々の経験によってのみ行われてきたといってよい.その結果として,時には必要な訓練も十分に受けられずに治療を途中で打ち切られたり,あるいはその逆に,不必要に長期間をリハビリテーション施設ですごしたりする例もありうるのではないかと危惧される.
頸髄不全損傷患者の上肢の運動機能障害は,損傷部位である頸髄内の出血や壊死による灰白質前角細胞の障害のための2次運動ニューロン障害と上肢への錐体路障害による1次運動ニューロン障害が混在するため筋力低下,巧緻性低下,腱反射亢進,病的反射などがみられ,その機能障害は残存することが多い.他方,下肢の運動機能障害は,頸髄部位での下肢への錐体路障害によるものが主体であり,受傷直後の完全麻痺の状態より,正常にまで回復するものから痙性が強くほとんど随意性のないものまでがみられ,訓練を開始するにあたって,個々の症例について正確な目標を設定することは決して容易ではない.
以上の理由からわれわれは頸髄不全麻痺患者の目標を設定するための基本的な資料を得る目的で,受傷時期の明確な外傷性頸髄損傷患者を対象として,障害発生後の時間的経過に伴う,能力障害(disability)と機能障害(impairment)の推移を検討した.
今回は,すべての日常生活動作の基本となる移動能力の予後を予測することを主な目的として,頸髄不全損傷患者の受傷後の移動能力の経時的変化,下肢筋力の回復経過,不全損傷の型別による移動能力,発生因子と移動能力の関係などについて報告する.
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