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はじめに
本日ここに参加することができ非常に嬉しく思っております.東京まではかなり長い旅でした.せっかく来たのですから,皆さま方の関心に何かプラスになることをお話したいと思います.
大腿切断により脚を失った人のための義足の設計は,長い間世界中の補装具師やエンジニアが追究してきた課題であります.切断者が個々の障害に応じて,最大限の日常生活動作を再びできるように,可能な限りの機能を回復する義足の製作に努力が払われてきました.古い時代の義足は,歩行の立脚期に体重を支え,トボトボ歩くだけの原始的な杖以上のものではありませんでしたが,近代的な大腿義足になりますと,手動の膝ロック機構を備えた単純な蝶番関節から,現在市販されております多種の義足へと発達してきました.大腿義足をこれから使用しようとする者やまた処方医にとって,義足に組み込む装置の選択は非常に困難なことであります.義足の発明者や,また製作者の主張には,自分達の作ったものに対する,かなり狂信的な信念を含んでいることが多いものであり,このため合理的なバイオメカニクスの基礎に立って,種々の義足を比較する方法を示すことが役に立つはずです.
大腿義足に基本的に必要となる条件を示すことは簡単であります.切断者が坂や,柔かい路面や,凸凹の路面を歩かねばならない時にも,通常歩行での立脚期の間と同様義足は正常な下肢と同じように体重を支えなければなりません.ということは,体重を支持する動作で,義足が安定性を備えねばならないことを意味しています.ここでいう安定性とは,体重支持期に膝が突然屈曲したり,制御不能な状態で屈曲したりしないことを意味しています.不安定な膝は当然,それを装着している切断者を危険な状態に置いたり,ケガをさせたりすることもあります.
第2の必要条件は,切断者の組織に損傷を生じたり,断端とソケットとの間の痛みにより異常な歩行をしたりすることがなく,快適に体重を支えることであります.大腿義足用のソケットの形,適合,アライメントに影響を及ぼす生物力学的要因に基いての議論は,それ自身ひとつの主題となるものでありますが,この私の論文では触れないことにします.切断者が自分の断端部組織と義足の機械要素の間の生物力学的なインターフェイスを介し,活動的で,かつ快適な方法で義足を操作制御できるように,適合がされてきたと考えられます.
義足についての第3の必要条件は,できるだけ力学的な正常歩行に似せるということです.切断者は同年代の健常人の通常の活動に伴う有効な歩行速度範囲内において,基本的にこれと変わらない形態で歩行できなければなりません.この最後の必要条件は,この数年,非常に注目されている点であり,遊脚期制御装置が最近の義足にどんどん取り入れられています.
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