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Ⅰ.生涯教育の時代
生涯教育の時代だという.学ぶ人の側からすれば,生涯学習の時代だということになる.一応の学校教育を終えた後で,なお何かを学びつづけ,何かを新たに学び始めることの動機は,人によっていろいろである.ある人は会社の仕事の必要性に迫られ,ある人は家事・育児から解放された時間を有効に過したいと願い,ある人は社会奉仕への必要知識習得を決意し,またある人は純粋に自己の知的世界の拡大を意図して,それぞれ学ぼうとする.しかし考えてみると,そのようなことはいつの時代にもあったように思われる.それなら何故今さら生涯学習だ生涯教育だと話題にされねばならないのか.その理由は3つ考えられる.第1は時代生である.Maslow(1948)やMcGregor(1960)は,人の欲求的行為には階層的次元があり,生物次元としての基本的欲求や社会的欲求がある程度満たされると,次には自我の独立や仲間から尊敬されることを望み,さらには自己を深め充実させたいと希う高次の欲求が現われてくるという.このいわば自己実現の欲求が,生きることの多様性を認める現代社会の時代的風潮とマッチして,多くの人々を学習行為へ誘ったものと考えられるのである.第2の理由はわが国が急速に高齢化社会を迎えたことに関係する.医学の進歩と生活条件の向上により,日本人の平均寿命は男性72歳,女性では77歳にも達した.一方,一般企業においては勤労者の定年は60歳前後に設定されている.再就職や自営への道を目指すにせよ,悠々自適の生活に入るにせよ,余生というには長い年月を有意義にかつ充実感をもって送りたいと思うのは自然である.すでに定年を迎えてからばかりでなくその日のあることに備えて,日頃から白分の趣味や理想に合った領域で学習活動を続け,自己の可能性を拡大しておく.その意義は学習者個人にとってのみならず社会的にも大きい.第3の理由は高齢者のみならずすべての年代が,急速に高度化し複雑化してきた現代社会に然るべき対応を迫られていることにある.産業革命をもって第1次技術革命とし,電気・化学技術革新に基礎をおく工業化社会の出現をもって第2次技術革命とよぶとすれば,現在はコミュニケーション技術革新を中心とする第3次技術革命の時代といえる(D.ベル,1979).それは生産・管理営業等の技術的・社会的組織形態を根本的に変えつつあり,われわれの生活や文化構造にも多大な変化をもたらしつつある.そのような変化に的確に対応していくためには,恒に新たな知識を求め,未来への洞察を深めておかねばならない.その認識が人々をして生涯学習へ誘ったもう一つの理由と考えられるのである.
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