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われわれの研究室では,ネコの脳幹を橋(pons)の中央部,三叉神経幹が入るやや吻側で切断した標本2)(midpontine pretrigeminal preparation)について学習実験を行っている.このような脳手術をうけたネコでは,大脳に達する感覚神経は,嗅神経と視神経だけであり,大脳の発する命令を実行することのできる運動神経は,動眼神経と滑車神経だけである.したがって実際の運動としては垂直眼球運動のみが前脳の支配をうけている.ヒトで脳幹出血によって同じような部位が傷害されると,いわゆる“locked-in-syndrome”7)が見られる.定型的なこのような患者では四肢は麻痺して動かすことができないが,眼球を上下に動かすことは可能である.言葉を発することはできなくても,学習によって外からの問いかけにたいし,たとえば肯定の時は眼を上に向け,否定のときは下に向けるなどの形で応答できるようになると言う.ヒトの脳幹出血の場合にはネコの切断手術後のように脳幹の遮断は完全ではないから聴覚刺激にたいしても応答できる場合が多いわけである.これと関連して興味ぶかいのは,かつてソ連理論物理学の至宝と言われたL. Landau教授が交通事故で頭部に重傷を負い植物人間のような状態となった.このときソ連政府は脳外科の世界的権威であるカナダのMontreal Neurological InstituteのWilder Penfield博士を招いて診察を依頼した.Penfield教授は,診察の結果,身体をまったく動かすことができず,一見昏睡状態のように見えるLandau教授の眼が問いかけに答えるかのように僅かばかり動くのを見逃さず,回復可能の診断を下した.はたしてLandau教授はその後急速に回復しはじめ正常な意識をとりもどすことができたと言われる10).
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