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はじめに
膝関節離断を下肢切断部位として選択するべきかどうか,外科的手技上から,また,義肢適合技術的な面で,多くの論議がなされてきている5,6,9,14).これらの問題点と膝義足におけるこれまで改良エ夫された点をまとめてみると,表1のようになる.
外科手技上の利点としては,①手術浸襲が下肢切断のなかで最少で出血量が少ないため,poor riskのある老人などに最適な手術である.②大腿四頭筋腱,ハムストリソグ筋腱の十字靱帯,関節嚢への再縫合により大腿筋肉のisometric contractionの可能性を残せ,ソケットの適合上良好な結果をうる.③小児切断では,骨端線の保存による成長障害をおこさない.④大腿骨顆部の軟骨が残存することにより炎症がおこったとしても骨までおよばない.⑤断端の術後変化が比較的少ないために,早期義足装着によるリハビリテーションが可能である,などがあげられる.
義足装着の立場から,膝関節離断の利点をみてみると,①断端の長いテコを利用した前後,左右方向でのすぐれた安定性,②大腿骨顆の残存によるソケット内での回旋方向での安定性,③広い大腿骨下端関節面における荷重性とこれによるproprioceptive sensationの獲得,④大腿骨顆部の膨隆によるソケットの良好な懸垂機能などがあげられる.
しかし,一方膝関節離断の選択に対して,過去において外科的にも,義足適合の立場からも多くの批判がなげかけられた.まず,外科手技的には,主として創の治癒遅延および失敗が原因としてあげられている.すなわち,動脈硬化症,糖尿病による血行障害が膝離断の原因の大半を占める欧米では,従来の長い前方皮膚弁を用いるアプローチでは創の治癒に不満足な成績をきたすことが多くこのため膝離断よりも大腿切断,Gritti-Stokes切断などをすすめる報告も少なくない6,14).これに対して,最近では後述するように,lateral flapなど皮膚切開の工夫により治癒率の改善を図る方法がVitali29),Baumgartner4,6),Greene11)などにより用いられるようになっている.
ついで,義足装着の側からみた欠点は,①ソケットの懸垂のためには利点であった大腿骨顆部の膨隆がそのまま不恰好であると同時に,②ソケットの適合手技が困難である.③単軸ヒンヂ型膝継手を用いることにより,立脚相遊脚相制御機構をとりつけるスペースのないことと,軸受の耐久性に問題があることおよび,筋金による下着など衣服の破損があげられる.以上,膝離断の利点,欠点をのべたが,これらの膝離断の利点をそのまま生かしながら欠点を義足の側で解決しようとの試みが多くなされている.すなわちソケットの適合手技においては,大腿骨顆上部に空気のbagを用いたpneumatic supracondylar suspension(Bar2)),小児膝離断の成長に対して長さの調整可能なsegmental socket design(Zettl)30),また,重量を軽減するためPTS socket(Richards)22)さらに,我々が長年試みてきた2重ソケットと同じような試み(Baumgartner)4,6)などが開発されている.
一方膝継手の欠ける遊脚相制御機能を補うために,Fendel,Kellie,RIM,FIOTなど多くの機械的摩擦による機構が用いられているが必ずしも一般化する所までいっていない.流体制御を用いたものとして,Hosmer,VAPC(hydraulic),Hydra-Nu-Matic OHC(pneumatic)などがあげられる.しかし,いずれにしても単軸ヒンヂ型継手の場合には改善に限界があり,上記のような欠点は解決されぬまま残されたことになっている.このため,cosmesisの改善を主目的としたリンク機構を用いた多くの膝継手が諸外国で開発されてきている.
以上,海外の論文を中心に膝離断および義足についてのこれまでの経緯をのべてきたが,日本人に適応する場合には,当然,比較的低い身長などの身体的特徴への対応と,室内での坐位動作を中心とする生活様式への適応など,我々が独自で考慮せねばならぬ問題が多い.しかし,残念ながら,国内においてこれまで著者の知る範囲では,この膝離断および義足に関する論文は皆無に近い.
そこで,今回は,我々が,昭和35年よりとりくんできた2重トータルコンタクトソケットをもつ膝義足25,26)の装着状態を遠隔成績により調査するとともに,中村が開発したHRC(兵庫県リハビリテーションセンター)シリンダーを用いた遊脚相制御機能の効果と問題点についてのべてみたい.また,さらにcosmesisの改善と衣服の破損の予防ができ,欧米に比して身長の低い日本人にも適応しうる4節リンク機構をもつ膝継手の開発を行ったので,これらにつきのべてみたい.
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