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障害者の生活環境に対して,種々な配慮がなされるべきであるということはわかっていても,実際的,具体的な問題については,わが国における指針というものは少なかった.すでに,この本を著した「障害者の生活環境をつくる会」によって,研究の成果が,障害者の研究1から3として発表されてきた.この一連のものは,わが国における障害者の生活環境という問題に対する数少ない指針として貴重な役割を果して来たと考えられる.さらに,今回刊行された,研究4にあたる「障害者の生活空間」によってまとめとして発表されたと考えられる.この本は副題にもあるように,障害者を配慮した建築設計資料として,今迄の研究成果を踏まえて,わが国における現状での具体的な提案がなされている点に最も大きな価値があろう.具体的には,第1章の障害者と社会・医学の視点から,第5章の外国文献資料に至るまでの5章に分けられているが,第1章および第2章・都市環境においては,障害者の生活空間に対する基本的な考え方,方法論,具体的な問題が手際良く述べられており,実際に建築に携わらない者にとっても大変参考になろう.第3章・建築環境,4章・家具・設備・人体寸法では,すでに述べた通り具体的な寸法に至るまで積極的な提案がなされる.最近,多くの所で障害者に対する配慮がなされている事は喜ばしいが,技術的に十分とは言えない場面も見うける.この本が実際の場面で活用されることを願いたい.そのためには,この本がより多くの関係者に読まれるようなPRをお願いしたいものである.
最後に,障害者の生活空間をより豊かにするためには,技術の問題以外に,社会的・経済的問題が大きなウエイトを占めることになる.これ等の問題について,積極的な発言が必要であろう.この会の委員の諸先生方の今後の努力に期待したい.
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