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まえがき
(1)リハ医療では,患者だけではなく家族教育も重要である.
(2)障害者の治療には,機能面だけではなく精神面での働きかけが必要である.(リハ医療は人間再生の教育でもある.)
(3)私たちが巡回診療を始めた動機と目的
リハビリテーション専門病院に入院してくるような患者たちには症状の軽いものが少ないので,彼らは何らかの障害をもって地域社会へ帰っていくといっても過言ではありません.このような場合,わが国の現状では,障害者が家庭や職場で本当に自立するということは容易なことではありません.いろいろな困難に打ち克って再び充実した人生を過ごすことのできる人が果たしてどれだけいるでしょうか.
二度目の喜びを得るためには,本人の強い意志と努力,家族や職場の方々の暖かい理解と協力が必要なことはもちろんですが,ここで,私たちが反省しなければならないと思うことは,リハビリテーション医療に従事しているものが,その治療の過程で,患者や家族に彼らの障害を正しく理解させ,本当の援助がどういうものであるかということを認識させる努力を十分にやっているかどうかということです.そして地域へ帰った障害者たちの多くのものが,家庭や社会でも,かなり孤独な立場にいること,再び働くことが予想以上に難しいこと,彼らの心にこみあげてくる不安や不満が次第に“あきらめの境地”へと転化して,ついには,挫折感から意欲を失ってしまうということを知っているのだろうかということなのです.
“障害者の暮す地域社会の環境の整備”もリハビリテーション医療の重要な役割の1つだといえましょう.
最近,ときどき耳にすることがありますが,“片麻痺の治療には5~6ヵ月もあれば十分だ”というような発言をする人がいますが,なるほど,機能障害の治療という面からだけで考えればその通りかも知れません.しかし,患者を全人間としてみたときに,私には,そう簡単に割切ることはできません.右上肢の切断者では僅か1ヵ月くらいでできる利手交換が片麻痺患者ではなかなか困難で,1年以上もかかることさえあるということ,そして,それは,患者が右手の機能回復への未練が容易には棄てきれないでいるからだということを理解して欲しいと思います.
現在の私は,“リハビリテーションとは人間再生の教育である”と考えております.障害者は病前の健康体のときとは別の人間になったのです.ですから,その能力にふさわしい,新しい価値観をもって新しい人生に立ち向ってゆくべきだと思います.無理や背伸びした状態は長くは続きません.自分の受けた障害を正しく受容し,残された能力で強く逞しく生きてゆくように指導―教育しなければならないと思います.再び生きる幸せと喜びは自らの手で掴むべきです.自分の健康は自分自身で護らなければならないのです.私たちは,治療の場において,患者や家族にしっかりした“躾”を身につけさせることも医療の役割の1つであると考えております.
これまでにも,私は,“障害を機能的に克服するということと,障害者が社会に適応して自立するということとは必ずしも同義ではない”とか,“機能障害にのみ目を奪われて,障害者の心を忘れてならない”などといってきたのも,以上のことを理解して戴きたかったからなのです.
地域社会における障害者の自立の困難性や治療の場における家族教育や患者への躾の重要性を私たちに教えてくれたのが巡回診療に始まった一連の地域におけるリハビリテーションサービスの経験だったのです.
私たちが地域へ出て巡回診療を始めた動機は,洞爺協会病院にリハビリテーションセンターが開設された当初の入院患者がほとんど陳旧例ばかりだったということと,やっとの思いで職場へ復帰させた片麻痺患者の半数が1年足らずの間に脱落してしまっていることを知ったからです.
したがって,その目的は,患者の早期発見と早期治療という見地からの,正しいリハビリテーション思想の普及であり,また,退院患者の地域社会での実態を調査し,治療に対する反省の資料にしたいということにあったのです.
北海道における,この脳卒中後遺症者の無料巡回診療は,保健婦教育,各地でのリハビリ教室の開催,脳卒中友の会の結成などとなって,地域におけるリハビリテーションサービスの充実のための基礎造りへと発展してゆきました.また,昨年,私が中伊豆リハビリテーションセンターに赴任してから実験した,西伊豆の土肥町と戸田村での巡回診療では,北海道とはまた異なった社会環境の困難性について学ぶことができました.私は,中伊豆リハビリテーションセンターの職員に本当のリハビリテーション医療のあり方を知って貰うためにも,再び,静岡県内の巡回診療から地域活動をやってゆこうと考えております.
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