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はじめに
切断術が他のあらゆる手術と異なる所は,その手術術式が,原因となる外傷または疾患によって左右されるのみでなく,切断後に装着されるべき義肢の側からの技術的要求をも満たすものでなければならない点である.zur Verthの切断高位の模式図なども義肢適合上の適否によってきめられたものであり,関節部はおおむね有害域とされ,骨幹部中央のみが甚だ有用として残されている.この部分はおおむね今のstandard AKやstandard BKに一致するもので,その有用性は昔も今も変る所はない.
しかし義肢製作技術の進歩はほとんどあらゆる部位の義肢装着を可能にした.zur Verthの有害域もほとんど有害ではなくなった.むしろ断端をできるだけ長く残すことは長いテコの腕を確保することになり,義肢のコントロールを甚だ有利にすることができる.膝関節離断はそればかりでなく,さらに断端負荷を可能にするので,畳の上を膝行するような日本式生活の中での有用性が認識されるようになった.
上腕骨長断端の場合は顆部の形を利用して上腕の回旋を義手に伝達させ易く,前腕の長断端は回内・回外を義手に伝達させ易い.前腕の最短断端でも,その僅かの屈伸運動を増幅して義肢に伝えることができる.このようなことから,Zur Verthの有害域は今ではもはや有害域でなく,むしろ利用価値のある有用域となった感がある.そこで切断に当っては断端はできるだけ長く残すという原則が成り立ってくる.
近年における義肢の進歩は何かといえば,おおよそ次のものを挙げることができよう.
1.筋電義手が実用段階に向かいつつあること
2.骨格義肢が義肢の主体を占める傾向になってきたこと
3.長断端,短断端 関節離断に対しても適切な義肢が作られるようになったこと
4.切断術直後義肢装着法が普及したこと.
このような趨勢は切断手技の上にもさまざまな影響を与えていると思われる.まず筋電義手のためには筋は長期間有用な筋力を保持する必要が一層大となり,筋の切断端は強固に骨の断端に固定しておかなければならない.骨格義足の普及を考慮に入れれば,切断高位や切断術式もある程度規格に適合させる配慮がなされてもよいであろう,長断端や短断端の場合はいかにして断端の運動を義肢に有効に伝達するかという問題が生ずる.また断端負荷の場合は無痛の良好な断端を与えるための工夫が必要となる.
切断術直後義肢装着法は最近著しい普及を示したか,これにもまだ種々の問題がある.優秀な義肢チームがあることが第一の必要条件と思われる.rigid dressingの価値は認められているが,パイロンによる早期荷重には慎重論が多いようである.高齢者の切断術後の術直後装着については賛否両論がある.
以上,切断術の手技および考え方について種々の問題点を挙げてみたが,これらについては各人各様の考え方のもとに様々の方法が実施されていると思われる.そこで今回は,1)切断高位の選択について,2)断端の処置(筋肉,神経,骨などの処置)について,3)術直後義肢装着法について,の3点について,第一線でご活躍中の方々のご意見を頂き,その直接の声を読者にお伝えすることを企画した次第である.アンケートにお答をお寄せ下さった先生方に厚く御礼申し上げる.
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