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リハビリテーションにとって,障害者の身体的側面だけでなく,心理的・社会的側面が重要であることは誰でもが知っていることであり,しばしば強調されることであるが,その割には,障害者の心理やリハビリテーションにまつわる心理的な諸問題(その中には治療者側の心理も重要な部分を占めなければならないのだが)について,ハンドブック的に書かれた本がこれまでほとんどみられなかった.アメリカなどにくらべると日本の医学関係者(というより日本人全般)が心理学的素養に乏しく,本当の意味では人の心理には興味をもっていないことを示す現象であったかもしれないが,それはともかくとして,そのような中で本書が果すであろう役割には大きなものがあるように思われる.
本書はユニークな本である.そのユニークさは著者自身が同時に精神科医であると共に四肢麻痺であり,リハビリテーションのいわば裏も表も知りぬいていることと無縁ではない.序論として「体験」という一章がおかれ,四肢麻痺者としてリハビテリーションを(しかも外国で)受けた(心理的な)体験が淡々と,しかし,深い自己分析とともに語られ,読者を一気に,障害者の立場にひきこませて,共にその地平に立つような心地にさせる,まさに心僧い導入である.続く総論の中心が「障害者とその環境」であることもユニークであって,障害者のフィジカルな(身体的な,また物理環境的な)条件とそれを変える可能性が語られ,障害者の心理をその環境の中でとらえようとする姿勢が示されている.各論は診断,治療,障害別考察に分かれ,豊富な文献の引用と著者自身の症例をもとに縦横に論がすすめられている.本書はリハビリテーションに携わる多くの人々に役立つであろう.
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