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はじめに
横浜市立大整形外科 土屋弘吉
日本リハビリテーション医学会の中に義肢装具委員会が設置されてから2年遅れて,昭和48年日本整形外科学会の中にも義肢装具委員会が設置され,私が委員長に指名された.この2つの委員会は,委員の顔触れも一部は重複しており,義肢装具についての研究開発の促進,医師および技術者の教育および資格の問題,行政上の問題点の指摘と解決等の共通の目的に向かって,異なる立場から協力し合うものである.
日本整形外科学会の義肢装具委員会は,義肢装具を医学教育の中の卒前および卒後教育にいかにとり入れるかを主な分担事項として,そのカリキュラム案の作成,視聴覚教育の充実,学会研修会での義肢装具のテーマ採用の促進,厚生省主催補装具判定医講習会の積極的後援等に取組んできた.「義肢装具給付に関する現行法の問題点」もこの委員会の討議の間に問題提起されたものである.
わが国で現在義肢装具を給付する法規は,主として身体障害者福祉法,児童福祉法,健康保険法,厚生年金法,および労災保険法であるが,これらの法は制定された年月も古く,今では実状に即しない点も多くなっている.そこでそれぞれの法の持つ問題点を委員会においてクローズアップして,その解決への手がかりを掴もうというのがそもそもの端緒であった.
身体障害者福祉法制定の当時は,更生医療は症状固定を前提として開始されるものであるという考え方が根強く支配していたが,リハビリテーションに対する理解が進むにつれて,早期リハビリテーションの価値が認識され,その必要が強調されるようになった.
義肢についていえば,その給付は,切断術の後に身体障害者手帳を申請し,その交付を得てはじめて可能になったので,その間に何ヵ月かの期間が空費される.ところがわが国では数年来手術直後義肢装着法が急速に普及し,切断術を行なった手術台の上で直に仮義足が装着されるようになり,義肢装着および最初の装着後訓練はすでに医療の一部と見做さざるをえないようになった.これらは従って健康保険法で取扱われても然るべきであろう.
また最近著しい発達をみた体外力源による義肢や筋電義手を例にとっても,その既製品を海外から輸入することは可能であるが,これを患者に給付することは普通の手段では不可能である.ハイドロカデンス,骨格義足のパーツ,膝接手,肘接手のパーツにしても,著しく煩瑣な規準外交付の手続を経ねばならず,実際上支給は不可能に近い.このような場合に,現行法を用いて処理するにはどうしたらよいか.
支給された義肢の適合判定の問題にしても,今のところ判定医に対する資格も身分も法的には何もきめられていない.わずかに厚生省で更生相談所補装具判定医に対する講習会を昨年開始したことは明るいニュースである.
委員会ではこれらの問題を解決するために各法の問題点の検討を試みることにし,身体障害者福祉法および児童福祉法については沢村誠志委員に,健康保険法については川村次郎委員に,厚生年金法については大塚哲也委員に,労災保険法については青山孝委員に,それぞれ分担して検討して貰うことにした.約11ヵ月を経て昭和49年4月の委員会の席上,各委員から検討の結果について詳しい報告が行なわれた.
結局現在われわれが直面している隘路のあるものは法改正をしなければどうにもならないが,またあるものは法の運用によって現行法のままでも処理可能である.しかし細かい技術的な問題もさることながら,判定医もしくは採型指導医の教育研修および資格制度,技術者(義肢装具士)の養成および資格制度,各法一本化の問題,義肢手帳普及など多くの根本的な問題が指摘された.
これらの報告は今後の義肢装具の発展のために貢献する所が大きいと考えられるので,総合リハビリテーションの誌上を借りて発表することにした.わが国の義肢装具行政の上に何らかの形で反映させていきたいものである.
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