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大部分の肢体不自由児施設では,取り扱う疾患で脳性麻痺(以下CPと略す)の占める割合が一番多く,しかも最近では早期治療が主流となりつつあり,中でもBobath氏夫妻によりイギリスで行われている,いわゆるボバース法は,日本でも急速に滲透しはじめている.ボバース法の原則は,成長途上の正常児の運動が発達する順序に従って,CP児の運動発達を促すもので,過緊張の異常パターンを抑制し,あらゆる熟練ないし巧緻運動の基礎をなしている正常姿勢反射機序のパターンを形成してゆくというものである.
昨年3月,愛知県におけるBobath氏を囲んだ会で,特に印象に残ったことは,「ひとつひとつの筋肉に捉われずに,多くの筋肉を包括した運動パターンとして捉えねばいけなく,たとえば,われわれが字を書き,自動車を運転し,その他いろいろの動作をする時に,多数の筋群をパターンとして用い,筋全体の働きでそれらの動作が遂行されているのであると理解すべきで,人体解剖で調べる筋肉の働きと,中枢神経系の命令でひとつのパターンとして作動している筋肉の働きは,同じ筋肉でもまったく違っている」ということであった.知覚運動系として人体の運動を捉え,立ち直り反応と平衡反応の2つの自律的反応によリコントロールされる正常姿勢反射機構は,ちょっと理解がむずかしいが,言語療法士である著者のMarie C. Crickmayは,Bobath氏夫妻特にPTであるBerta Bobathの助力もあって,著書の前半は,CPの症状と問題,それに対するボバース法の適用,それに正常児の運動発達段階とCP児における運動の相異に重点をおいて記述し,後半に,言語治療(療法)の実際について述べているが,これは著者が,言語療法は理学療法や作業療法とはまったく違った治療のアプローチをもつものでなく,あくまでもCPにおいては,身体の他の部分の運動行動からSpeechを切り離して,発語機構の運動行動だけを行うことはできない,としているからでもある.まさに言語療法は,理学療法におけると同様に,子供の神経筋発達の次の段階へとすすむのを妨げている反射行動を,抑制しようと試みることからはじまるのである.
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