連載 買いたい新書
—井上 章一著—狂気と王権
杉田 聡
1
1大分医科大学
pp.500-501
発行日 1997年5月1日
Published Date 1997/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905351
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社会統制装置としての医療医療が内包する危険な側面
「心神喪失者ノ行為八之ヲ罰セス」と刑法ではその39条において,犯行時に心神喪失であったものを無罪とする規定があります.この法律により,いかに凶悪な犯行であっても無罪になる判決があります.被害者はもちろん,一般世論としてもやりきれない思いがしますし,またそういう事例が出ることにより,犯行にいたらないほとんど大部分の精神障害者や薬物依存者に対しての偏見が強まるという悪影響もあります.そして,この39条は弁護側がどうやっても弁護できないときの最後の手段にもなっています.しかし,本書は弁護側ではなくて検察側が,被告が心神喪失であると主張した事例を扱ってます.これはいったいどういうことなのでしょうか?
本書で取り上げられた最初の事例は,元女官長であった島津ハルが現天皇を否定する言動をはたらいたというものです.これは旧憲法下では不敬罪にあたります.ところが時の政府も検察も取り調べの結果,精神異常者として不起訴とすることに努めました.ハル本人が自分は正常であると主張するのにです.著者はその謎に取り組んで,1つの理屈にたどりつきます.すなわち,「どこの馬の骨ともわからぬ連中が,不敬の言辞をはくというのなら,まだわかる.(中略)だが,ハルのような身分の女が,不敬罪をおかす.それは,あってはならないことだった.」
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