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この単行本は1968年Academic Press社より発行され,編者はH.B. Fallsである.FallsはミズリーのSouthwest Missouri State Collegeで体育を教えており,運動学,エネルギー代謝をしらべるための実験室の主任でもある.この書物の執筆者は生理学,体育学,航空医学,心臓病学などの研究に従事している人たちで,医者ではない.医者としてわれわれは運動とか体力とかを常に考えており,また患者に接する上にも運動の生理学を研究することはきわめて大切なことである.医者あるいは医学者が書いている運動の生理学に関する良い本は多いと思われるが,医者以外の研究者の考え方にも参考になることが多いと考え本書をとりあげてみた.
470ページの中冊子である本書は大きく3つの部門に分かれている.第1の部門は基礎生理学的な事項の解説であり,骨格筋,神経系と筋収縮,筋力,筋疲労をはじめとして呼吸系,循環系,そして消化器系や腎臓などと運動との関連性に議論がおよんでいる.ホルモン系と運動との相関にまでおよんでいる.副腎皮質ホルモンや下垂体前葉ホルモンは筋肉の収縮運動後に血清中に増量して来ることなども知られている.訓練と17-KS尿中排泄量との関係の研究も行なわれている.第2の部門は13の項目に分かれており,栄養と運動.体温調節,運動意欲の昂揚などが述べられている.Dopingと称して人間の競争意識をかり立てて運動を遂行させ人工的に不自然にhyperactiveな状態にもたらすために興奮剤など特殊な薬物を使用することについても触れている.これは今期オリンピックなどでも問題になった.つづいて寿命,健康と運動との関係が述べられている.一般に信じられているほどの科学性は乏しいとはいえ,運動を行なっていると寿命が長くなるということがmass surveyの証拠をもとに示されている.しかも慢性の呼吸器疾患などは安静で運動をしないとかかりやすいという事実もあることであり,高血圧,閉塞性動脈疾患,糖尿病,喘息などについての好影響も認められている.われわれが現在運動療法の対象としてとりあげることができるのはまさにこれらの疾患に対してである.糖尿病にいたってはインシュリン療法が全盛になる前には運動療法が唯一の方法であったらしい.したがってやはり肥満症や糖尿病にも良き療法として見直されるべきであるというわけである.続いて高い所におけるガス張力の変化が運動能力におよぼす影響が述べられ,身体活動と消費エネルギーの事が解説されている.熱量測定法Calorimetryについては簡単な図解とともにわかりやすく書かれており,将来リハビリテーション医学の研究分野として行なうべきもっとも基礎的な事項の1つと思われる.理学療法士や作業療法士がこのような研究分野に医師やその他の研究者とともに入って行くことは考えるに難くないので参考になるであろう.第3の部門はスポーツについてのややくわしい論述で代表的なものとしてrunningとswimmingという2つをあげてその訓練の方法,量,などについて生理学的観点から議論の展開を試みている.
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