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Ⅲ.経済効率か福祉か
アメリカで総合的なリハビリテーション行政の大綱が確立した1954年に,ときの大統領アイゼンハワーはリハビリテーションの効用について次のような注目すべき発言をしている.‘現在われわれが非生産的な障害者を保護するために費す財政支出は彼らを自活させ納税者とするために必要と推定される金額の3倍に達している.リハビリテーションを受けた人々は全体としては彼らの更生のために使われた費用の幾層倍もを国家への納税として返済しているのである’(議会宛特別教書).‘(国家によるリハビリテーションの実施は)第1に全世界に向ってわがアメリカではひとりひとりの人間の尊厳と価値がいかに高く評価されているかを改めて強調するものであり,第2にそれはきわめて重要な人道的投資でありながら合衆国ならびに各州政府財政に莫大な金額を節約させてくれるものでもある’(上院での演説).これがリハビリテーションの‘経済性’であって,整理すると3通りになる.第1は役に立たない障害者を労働者(広義の)に変え資本主義経済のために新たな労働力を創りだすということ,第2はその結果彼らが支払う税金はリハビリテーションの費用を相殺しなおその上に莫大な収益を国や地方財政にもたらすということ,第3はリハビリテーションを引受けた政権が‘人道的’な政権として人々の信望と支持を期待できるということである.ただしこの第3点は一般にはリハビリテーションの経済性のなかには入れられていない.権力の‘妥協’の内容それ自体であるからそれも当然といえるが,しかし損をしないで必要な妥協ができるということはやはり経済的であり,権力はこの意味でもできるだけ有効にリハビリテーションを活用しようとする.わが国にさいきん簇出する‘観光施設’などはその戯画的な一例であろう.
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