Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
アイスキュロスの『縛られたプロメテウス』―運命との闘い
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.98
発行日 2012年1月10日
Published Date 2012/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552102350
- 有料閲覧
- 文献概要
紀元前462年頃上演されたと考えられているアイスキュロスの『縛られたプロメテウス』(呉茂一訳,岩波書店)は,「あまりにも人間どもを,愛しすぎた」ために,ゼウスの怒りを招いたプロメテウスの悲劇である.プロメテウスは,人類に火や医薬をもたらしたのに,ゼウスによってコーカサスの山中で磔の刑に処されるのである.その意味で,『縛られたプロメテウス』は,敬虔な信者でありながら幾多の苦難に遭遇する旧約聖書の『ヨブ記』にも似た物語だが,ヨブが最後には神に従い運命を受け入れているのに対して,プロメテウスは,最後までゼウスと闘う姿勢を示している.
すなわち,岩山に縛りつけられながらも自らの主張を曲げようとしないプロメテウスに対して,周囲の人々は「不可避の女神の前には頭を下げるが利口な人です」と,恭順な態度を示してゼウスの怒りをおさめよと助言する.しかしプロメテウスは,そうした周囲の助言を一顧だにしない.彼は,自分の態度がもっと苦しい呵責を招くことを知りながら,ゼウスに対する非難を止めようとしないのである.プロメテウスは「神らをみんな,私は憎む,私のおかげを蒙りながら,不当な悪を私に対して報いるからは」と,あくまでもゼウスの仕打ちを不当なものとして糾弾しつづける.
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.