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はじめに
筆者が外来診療に携わるスポーツ医学総合センター(旧称スポーツクリニック)が,慶應義塾大学病院に開設されたのは今から約20年前のことである.整形外科,内科,小児科,リハビリテーション科などが診療科の垣根を越え,スポーツ医学という共通のプラットホームでクラスター的に関わるというのが設立時のコンセプトであった.当時,スポーツ医学と言えば“整形外科が中心となって行うスポーツ傷害治療”という認識が一般的であり,内科系領域がスポーツ医学診療に関わるというスタイルは全国的にも珍しいものであった.“内科の先生はどんな診療を行っているのですか?”という質問を学内からもよく受けたものである.
20年前と言えば,生活習慣病はまだ“成人病”と呼ばれていた.“成人病”は行政用語であるが,“成人”という用語が用いられた理由は,ここに分類される疾患の発症には年齢(=加齢)の関与が大きいという発想に基づいたものと推測される.したがって今日のように発症要因としてライフスタイルの重要性が議論されることはあまりなく,発病した時点で薬物療法開始という形が通常のパターンであった.
しかし,欧米の学者の捉え方はすでに違っていた.スタンフォード大学のG. Reven教授がメタボリックシンドロームの原型とも言える“Syndrome X”なる病態を学術誌に発表したのは1988年のことである.Revenは糖尿病,高血圧,脂質異常症などの慢性疾患は重複して一個人に発症することが多いが,その背景としてインスリン抵抗性の存在が重要であり,さらにインスリン抵抗性をもたらすものとして,過食や運動不足が重要であることを指摘した1).多くの“成人病”の発症にはライフスタイルの関与が大きいということを,インスリン抵抗性という概念を使ってきわめてエレガントに説明したのである.その後も本邦を含め多くの学者が同じような病態の存在を報告したが,病因論の解釈の部分で若干の相違はあったものの,過食,運動不足(およびそれによってもたらされる肥満)が発症のリスクとして重要であるという点では一致しており,いくらかの議論を経たのち,今日のメタボリックシンドローム診断基準の策定へとつながった.時期を同じくして“成人病”という用語についても当時の厚生省を中心に再検討がなされた.病因として“加齢”をイメージさせる“成人病”ではなく,より病態を反映する“生活習慣”を強調すべきという考えから,1996年,“成人病”にかわって“生活習慣病”という概念が導入された.これを機に,慢性疾患に対する予防や治療を目的とした“運動療法”という考え方が広く認知された印象がある.
本稿ではこの運動療法の考え方の過去から今日に至るまでの変遷を中心に述べるとともに,若干の経験を踏まえ,これからの運動療法の展望についても言及したい.
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