Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ゴンクール兄弟の『日記』―病跡学の先駆者
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.596
発行日 2010年6月10日
Published Date 2010/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101797
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ゴンクール兄弟が1851年から1896年までのおよそ半世紀にわたって書き続けた『ゴンクールの日記』(斎藤一郎訳,岩波書店)は,19世紀フランス社会の記録としてその歴史的な価値が高く評価されている日記であるが,そこには病と創造の関係に関する病跡学的な見解も示されている.
例えば,1863年1月21日には,「作品の繊細さや絶妙なる憂愁,魂と心の震える琴線上のたぐい稀なるそして甘美なる幻想のためには,どうしてもその人のうちに病的なる部分が必要なのだ」とあるし,翌1864年1月18日には,テーヌらとの間で交わされた次のような会話が記されている.すなわち,「憂鬱症」について,テーヌが文学者特有とされていたこの病気を嘆いたのに対して,ゴンクール兄弟は「天才とは一種の神経症だと思うから,それがむしろごく自然なものだと思う」と反論した.この時テーヌは,憂鬱症には医学的・衛生的な手段を用いて戦いを挑むべきだと主張したのだが,兄弟側は「あらゆる才能はおそらくこの神経症的状態という条件ぬきでは存在しえない」と抗弁したのである.
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