リカバリー（回復）―「依存症」を越えて

Beyond the addiction.

治癒しない病

　筆者は20歳代半ばにソーシャルワーカーとして古い大きな精神病院に就職したが，その頃はアルコール依存症者が嫌いであったし，薬物依存症者はもっと嫌っていた．振り返って考えれば，その理由は簡単なことだった．病院は患者が生活に破綻をきたして来るところであり，われわれは日々そうした状態の患者と出会う．元の生活に戻れるようになれば，彼らは病院を後にする．医療スタッフは「最悪の状態」で病院に来た患者のことはみているが，病院を後にした患者の「回復した状態」はみていない．ここに落とし穴があった．筆者は，「回復した状態」も知らずに，病院に来た姿だけをみて彼らを嫌っていたのだった．

　依存症治療の分野では，「回復」という言葉は使うが「治癒」という言葉は使わない．依存症は，自分の意志ではコントロールできない病気だからである．