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私の母は物心がつく頃から始めた日本舞踊をこよなく愛し,今も師匠として毎日お弟子さんと稽古をしております.リハビリテーション専門医のはしくれである私は,普段は堅苦しい白衣姿で診療に携わっていますが,この母の弟子の一人でもあります.私ども母娘二人は,歌舞伎座や古典芸能の鑑賞の際に和服姿で街へ出向きます.銀座や浅草を歩いていると,海外から日本を訪れた旅行客の方々が,カメラを手に旅の思い出を記録する姿を目にします.少し前のことでしたが,私どもが写真の端に写ってしまったら邪魔だろうと思って横によけると,なぜかその分こちらに寄って来られ困惑していたところ,「シャシン」と言われて,ようやく和服姿の日本人と一緒に写真を撮りたいのだと察しました.快く一緒にフレームに収まることに応じると,満面の笑顔と片言の日本語でお礼を言って立ち去られました.その後も一度や二度ならず,海外からの旅行者に「シャシン」のお供を頼まれる場面に遭遇し,時には10人ほど順番待ちの行列ができることもありました.私どもはその都度足を止め,ささやかな国際交流に貢献させていただくことにしています.
本題ですが,今日のリハビリテーション医療が「日本」の生活様式や患者さんの要望を踏まえた治療選択ができているかという点について,今一度,見直すべき時期に差し掛かっているのではないでしょうか.今さら言うまでもなく,「病を診る」のではなく「病を負った人を診る」のが望ましい医療ですが,聞き飽きるほど語り継がれてきたこの言葉を,われわれはどれほど深く掘り下げて理解できているでしょうか.リハビリテーション医療の現場で,日常的に用いられているQOL(quality of life)は,わが国固有の文化と生活様式,価値観,人生観・死生観に基づいた患者さん一人ひとりの要望を理解してこそ,最善の目標に到達し得ます.国際的な医学的モデルの重要性に異論はありませんが,それとともに,わが国独自に適用される医療モデルについても,まだ議論の余地があると思います.
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