- 有料閲覧
- 文献概要
正月明けに,医学部時代の同級生が10年ぶりに研究室を訪ねてきた.彼は,昨年7月の教授選挙で母校の解剖系講座の教授に選出されていたが,仕事の引き継ぎが長引いて,1月1日づけで着任したという.最初,研究室のドアが開いて目が合った時は,誰だかわからず,彼の風貌の変化にちょっと驚いた.お互いに髪の毛が薄くなった頭を見合い,ニヤッとしたが,私は内心で彼のほうが相当キテルと思った.母校への凱旋には違いないが,本人から前職での激務を聞いて,その変貌ぶりも当然だと感じた.同級生で集まってお祝いをやろうという話の後,彼は,母校の変貌に驚いたと話した.言わずと知れた,地方大学の医師不足の現状である.今後,彼が管理運営していく講座には,教員・大学院生を含めても彼の他に医師はいない.初期臨床研修のマッチングで例年下位にランクされ,臨床系講座が人手不足で,地域病院から医師を引き上げている状況では,基礎系大学院へ進学する医師もほんの一握りである.
私が大学院へ進学したのは,20年以上前であるが,当時は内科や外科の医師が基礎系の大学院で学び,そこで基礎研究の面白さに魅せられて,そのまま基礎系講座に残ることは珍しくなかった.私もある意味,それに近いのかもしれない.私は医学部卒業時に,あまり人の多くなかった形成外科を選んだ.自分の興味と適性を考慮してのことではあったが,将来性も感じた.最近の形成外科人気をみると,その予想はあながちはずれではなかったようであるが,事情は少々違う気がする.それはさておき,当時,医学部卒業生は,大学の各講座に入ると同時に大学院へ進学するのが当たり前の時代であった.私も当初は解剖系講座の大学院へ行って,医学博士取得後に形成外科へ戻る予定であった.しかし前述の彼が,当時としても珍しく医学部卒業後に臨床系の講座に進まずに,研究者を目指して解剖系講座の門をたたき,当然ながら大学院へ進学した.そのため,私の解剖系講座における大学院の割り当て枠がなくなってしまった.1年進学を遅らせることも考えたが,当時の形成外科の教授から,熱傷治療で関わりのあったリハビリテーション部門の大学院はどうかと尋ねられた.リハビリテーションの知識はほとんどなかったが,当時は教授の薦めは絶対であり,こちらに選択の余地はなかった.二つ返事でOKし,結果としてそのままリハビリテーション専門医となり,現在に至っている.その意味で,彼の存在は間接的に私をリハビリテーションの世界へ導いたことになり,何かしらの因果を感じずにはいられない.
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.